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ゼミが終わり、学食に入ると窓際の席に拓海が1人で座っていた。 ー大学で見るのは初めてだな 「ここ座っていい?」 拓海の向かいの席に座った。 「···座ってから言わないでください」 無表情でオムライスを食べている。 「敬語やめようよー」 「···やめません」 「ケチ」 リュックの上に頭を乗せて顔を見上げた。 ーまつげ長いな 「ご飯食べないんですか?」 目が合って思わずそらしてしまった。 「あ、うん。買ってくる」 大量の皿をテーブルに並べると驚いていた。 「ほんとに大食いなんですね···」 「背が無駄に高いから栄養届けないと」 座ろうとしたとき、吊り下がった照明にぶつかりそうになって拓海の口角が少し上がった。 「身長高いの羨ましいです」 「俺はもっと小さい方がよかったなー。困ることばっかりだし」 「僕はいいと思うけど」 小さな声で呟いた。 ー今、タメ語だった? 「なんか言った?」 「いや、何でもないです」 口角が元の場所に戻った。 「今日バイト何時から?」 「18時からです」 「お、同じじゃん。校門前で待ち合わせて一緒に行かない?」 「···考えときます」 そう言ってそそくさとゼミに戻っていった。 社交辞令で来ないと思ってたから、校門前に拓海がいるのがめちゃくちゃ嬉しかった。 「お待たせ!来ないと思ってたから嬉しい」 「大げさですね」 「ほんとだって。じゃあ行こうか」 横に並んで歩くと身長差をさらに感じた。 「拓海ってスポーツやってたの?」 「いや、何もやってないです。むしろ苦手で」 「でも意外と筋肉あるよな」 「引っ越しのバイトしてたんで、それでついたんだと思います」 「へーそうなんだ」 ーなんだ、普通に話せてるじゃん 居酒屋は華金ということもあり、大忙しだった。次々と注文が入り、キッチンもホールもフル稼働でなんとか対応していた。 お酒を作って奥の個室に持って行くときに、拓海が酔っ払いに絡まれてるところに出くわした。 「兄ちゃんさぁ、声聞こえないんだけど」 「居酒屋向いてないんじゃないの?」 強面のおじさん3人が大きな声で笑っていた。拓海は何も言わずに俯いている。酒を運んだ後にフォローに入った。 「お客様、どうされましたか?」 「この人、ちゃんと注文取れてんの?確認するとき声小さくてさぁ」 「そうそう、接客業なのに愛想がねぇよ」 「申し訳ございません。注文確認させて頂いても宜しいですか?」 伝票を確認すると一つの漏れなく書かれていた。 「お間違いないですか?」 おじさん達はバツが悪そうに大人しくなった。 「戻ろう」 拓海に声をかけてキッチンに戻った。 「すみません···」 「拓海は何も悪いことしてないし」 「···でも」 「あそこの席は俺が担当するから、これ運んで」 「分かりました」 怒涛のバイトが終わり、着替えていると拓海も入ってきた。他のバイトは先に帰って2人きりだ。 「あの···さっきはありがとうございます」 「うん、ああいうのよくあるし。全然気にしなくていいから」 「誰にでもこうなんですか?」 「ん?何が?」 「いや···何でもないです」 何か言いたそうなのをグッと堪えている。 「言いたいことあるなら言いなよ」 「僕に優しくしないでください」 そう言うと、急いで着替えて帰っていった。

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