5 / 61

−2−

大学に入っても、できるだけ人と関わらないようにしてきた。入学アルバムで眼鏡を外したのは、同一人物だとバレにくくするためだ。 講義で努を見るたびに、省吾の姿と重なって胸が苦しくなった。このままお互い関わらないで卒業したかったのに。 努は忘れてるかもしれないが、入学式で努の左隣に座ってたのは僕だ。右隣の峯岸と仲良く話していて、僕のことは視界にも入ってなかっただろう。 入学式が終わって、階段を下りるときに後ろから押されて転びそうになった。その時、前を歩いていた努にぶつかってしまった。 「す、すみません···」 「俺は全然大丈夫だけど。けがしてない?」 大きな体を折りたたんで、目線を合わせて話してくれた。 「···だ、大丈夫です」 「そっか、それならよかった」 そう言って人混みに消えていった。 それから時間は流れ、1年の冬にまた努と話す機会が訪れた。体育館にスマホを忘れて取りに行ったら、努が1人でバスケの練習をしていた。長い手足でドリブルやシュートをする姿から目が離せなかった。 「どうしたの?」 見てるのに気付かれた。 「···あ、あのスマホを忘れて」 「もしかしてこれ?」 そう言って、ポケットから取り出したのは僕のスマホだった。 「それです」 受け取ろうとすると、スマホの代わりにボールを渡された。 「シュートが入ったら返してあげる」 「···は?」 何を言ってるのか全然分からなかったが、汗が滴る笑顔が眩しくてやってみることにした。 運動は昔から苦手で、何回か挑戦したが全然ゴールに届かなかった。諦めようとしたとき、後ろから手が添えられた。 速くなる鼓動が、聞こえてしまわないか心配になるくらい近くに努がいた。 「こうやって投げるんだよ」 2人で放ったシュートはゴールに吸い込まれた。 「は、入った···」 「はい、じゃあ約束通り返すね」 そう言ってスマホを渡された。 「もう忘れるなよー」 そう言うと努はボールを片付け始めた。 「···あ、あの」 「ん?」 「ありがとうございます!」 「うん」 体育館を出る前に、努の後ろ姿を写真に残した。

ともだちにシェアしよう!