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距離−1−
「僕に優しくしないでください」
拓海に言われた言葉がずっと頭の中を巡っていた。
ー何か余計なことしたかな···
いくら考えても答えは分からなかった。
もやもやしたまま大学に行くと、純がいた。
「純、話聞いてほしいんだけど」
「うん、いいよ」
「飯奢るから場所変えよう」
「了解」
ファミレスに移動して、拓海とのことを話した。
「うーん···努は悪いことしてないと思うけど」
純は飲んでたコーヒーを置いて腕組みをした。
「だよなー」
「でも」
「でも?」
「距離感は考えた方がいいかも」
「距離感?」
「努って基本、人との距離が近いじゃん」
「そう?考えたことないけど」
「多分、拓海くんからすると距離が近すぎてどうしていいか分かんないんじゃない?話聞く限り、拓海くんは人見知りって感じするし」
「そう言われてもなー」
「まぁ、人によって違うから何とも言えないけど。分かんなかったら本人に直接聞いてみれば?」
「うん、そうしてみる」
「努が人付き合いで悩んでるの新鮮で面白い」
そう言うと、純は笑った。
「笑い事じゃないんだけど」
「それだけ拓海くんのことが気になってるっていう証拠だよ」
ー気になってる···のか?
「気になってるっていうか、ただ同じ学部でバイトも一緒だから仲良くしたいだけだよ」
「ま、応援してるよ。じゃあご馳走さま」
「もう行くのか?」
「うん。卒論書き始めないと」
「そっか、話聞いてくれてありがと」
「またね」
バイトで会ったら直接聞いてみようと思ったが、拓海は休みだった。店長曰く風邪を引いたらしい。
家の場所は、この間一緒に帰ったときに教えてもらったので知っていた。バイト終わりにお見舞いに行こうか考えたが、拓海の言葉が頭をよぎった。
心配だから行くだけ、と言い聞かせてコンビニで色々買ってから家に向かった。
インターホンを鳴らす。
応答がないので、もう一度鳴らした。
「···はい」
「努だけど」
「···何しに来たんですか?」
「店長から風邪引いたって聞いたから、お見舞いに来た」
「···帰ってください」
話す声が弱々しい。
「嫌だ。心配だから開けるまでここにいる」
大きなため息が聞こえて、鍵が開いた。
拓海はスウェット姿で熱冷まシートを貼っていた。
「開けたんで、帰ってください···」
そう言うと俺の方に倒れてきた。
「お、おい!」
呼吸が荒く辛そうだったので、ベッドに運んだ。
「···余計なことしないでください」
「いいから大人しくしてて」
熱冷まシートを新しいのに替えて、薬を飲ませた。
しばらくして寝息が聞こえてきた。
起こさないように静かに帰ろうとしたとき、服を掴まれた。
「悪い、起こしちゃった?」
拓海は首を横に振った。
「努、ありがとう」
そう言ってまた眠りについた。
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