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拓海の部屋を出て、その場に座り込んだ。 ー可愛いかった そう思った自分に驚いた。 きっと寝言だったんだ、と思い込み家に帰った。 次の日、拓海がバイトに来ていた。 「昨日はありがとうございました」 「もう大丈夫なのか?」 「はい、寝たらよくなりました」 「あ、あのさ···」 昨日のことを覚えてるか確かめようと思ったが思いとどまった。 「いや、何でもない」 拓海が不思議そうな顔でこっちを見ている。 「この間、言いたいことがあるなら言えよって言ってたの誰でしたっけ?」 痛いところを突かれた。 「昨日、俺が帰ろうとしたときに何か言った?」 「いつ帰ったのかも覚えてないです」 「そっか···。それならいいんだ」 ー覚えてなくてよかった ホッとしていると、拓海が近づいてきた。 「っな、何!?」 眼鏡越しに目が合う。 「ほんとは覚えてますよ」 そう言ってホールに出ていった。 ーお、覚えてたのかよ··· 仕事中も拓海が気になって、しょうもないミスを連発した。常連のお客さんにも店長にも何事かと心配された。 バイトが終わって着替えに行くと拓海がいた。今までは何も気にしてなかった距離感がつかめない。 「今日どうしたんですか?」 初めて拓海から話しかけられた。 「あー···何でもない」 早くこの場からいなくなりたいと思って、急いで着替えを済ませた。 「じゃあまた。お疲れ」 顔も見ないで出てきてしまった。 早足で家に向かっていると、後ろから声がした。 振り向くと拓海が走ってこっちに向かっていた。 「何で逃げるんですか!」 「そっちも病み上がりなんだから走るなよ!」 「ちょっと待って!」 簡単に引き離せると思ったが、意外と食らいついてきた。 「昨日のお礼がしたいんです!」 さすがにこのまま帰るのは悪い、と思ってスピードを落とした。 「お礼なんていいのに···」 「いや、借りを作るのは嫌なんで」 「借りって···友達のお見舞いするのは当然だろ」 「そういう優しさが勘違いさせるんだよ」 口が滑ってしまったのか、拓海は口を手で覆った。 「勘違いって、何?」 「な、何でもありません···」 そう言うと紙袋を渡してきた。 「···お礼です。いらなかったら捨ててください」 中を見ると弁当箱らしきものが入っていた。 「じゃ」 そう言って走り去った。 ー勘違いってどういうこと? 混乱した頭を落ち着かせるために、いつもよりゆっくり歩いて帰った。

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