12 / 61

−3−

映画からの帰り道、拓海にキスされたことで頭がいっぱいだった。 ー唇柔らかかったな ついこの間まで他人だった拓海が、友達を飛び越えて恋人になった。そのスピード感にまだ頭がついていかない時がある。 「あのさ···」 隣を歩く拓海に声をかけた。 「ん?」 俺を見上げる姿は、可愛い、とは思う。 「俺たち付き合ってるんだよ、ね?」 拓海が足を止める。 「そうじゃなかったらキスしないし」 恥ずかしいのか俯いている。 「そ、そうだよな···。ちょっと展開が早過ぎてついていけないっていうか···」 「前向きに検討してくれるんでしょ?」 「そうだけど···」 「努は僕とそういうことしたくないの?」 「そういうことって?」 「···キスとかそれ以上のこと」 拓海のうなじが真っ赤になっていた。 それ以上のことを想像してしまい、顔が熱くなる。 「と、友達から始めないか?」 「···それってしたくないってこと?」 「じゃなくて···もっとゆっくり進めたいってこと···」 「友達のまま終わるのは嫌だ」 「もちろん恋人になる前提で、の話で」 拓海はしばらく考えて、口を開いた。 「じゃあ1ヶ月時間あげる。その間はキスとかしないから、いい?」 「···お、オッケー」 ー1ヶ月キスできないのか 自分から提案したのに、自分の首を締めることになった。 それからというもの、大学でもバイト先でも拓海に会うたびキスを思い出すようになってしまった。拓海は今までと変わらない様子で、自分だけ意識して悶々としてるのが恥ずかしかった。 2週間が過ぎた頃、拓海の家に遊びに行くことになった。家に行くのは風邪のお見舞いに行った以来だ。 インターホンを鳴らすと、鍵が開いた。 「外寒かったでしょ」 「うん、めっちゃ着込んできた」 拓海が温かいココアを出してくれた。 部屋は片付いていて、必要最低限のものが揃ってる住みやすそうなところだった。 「俺の部屋散らかってるから今度掃除して」 「僕、お母さんじゃないんだけど」 「えー、ご飯奢るから」 「じゃあ考えとく」 「まじ?やった!」 「考えとくだけだから」 「ケチ」 「せっかく卵焼き作ったけど、そんなこと言うならあげない」 「え!作ってくれたの?」 「うん。また作ってって言ってたから」 覚えててくれたことが嬉しくて、抱きしめた。 「まだ友達期間だけど···」 「いや、なんか抱きしめたくなって」 「何それ」 そして吸い込まれるようにキスをした。 「卵焼き、ちょうだい」 「うん。その前にもう一回」 そしてまたキスをした。

ともだちにシェアしよう!