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誕生日当日、はやる気持ちをおさえて待ち合わせ場所へと向かった。
努は入り口のところで待っていた。背が高いからか通り過ぎる人たちに二度見されていた。映画館に行ったときとは違う組み合わせの私服だった。
「お待たせ!」
「俺もさっき来たとこ」
話す息が白く染まる。
「じゃ入ろっか」
「うん」
隣に並んで中に入った。
ライトアップされた水槽の中を色とりどりの魚が
気持ちよさそうに泳いでいた。
「水族館なんていつぶりだろう」
「俺も昔、家族で行ったきりだなぁ」
人の流れに身を任せて進んでいくと、クラゲのコーナーにたどり着いた。照明が少し落とされた部屋には、円筒状の水槽に入ったクラゲが光に照らされて優雅に漂っていた。
「綺麗だなー」
そう言ってクラゲを見つめる努の横顔を写真に収めた。
「え、今撮った?」
「うん、クラゲをね」
「俺じゃないのかよー」
努は拗ねたように口を尖らせた。
「一緒に写真撮らない?」
「お、いいね」
クラゲを背景に初めての2ショット写真を撮った。
フロアを上がっていくと、屋外の広い空間に出た。
下を見ると大きいプールにイルカが泳いでいる。
「これからイルカのショーが始まります。興味のある方は屋外フロアまでお越しください」
アナウンスが流れると、人が集まり始めた。
「俺たちも座ろっか」
「うん」
プールからできるだけ近い席に座った。
ショーが始まると、飼育員さんの合図に合わせてイルカが高くジャンプした。ジャンプが決まるたび、歓声が大きくなる。
「すごいなー」
口を開けて見ている努に、イルカが着水して跳ねた水がかかった。
「うわ!濡れちゃったよ···」
「これで拭いて」
ハンカチを手渡した。
ショーが終わり水族館を出ると、綺麗な夕日がビルの隙間から顔を出していた。
「いやー楽しかったなー」
「ありがとう、連れてきてくれて」
「喜んでくれたみたいでよかった」
努はすごく嬉しそうだ。
「この後は?」
「お店予約してるから行こ」
「うん」
努が予約したというお店は駅からほど近く、雰囲気のいい居酒屋だった。
「いい感じのお店だね」
「前に来たことあって、拓海を連れてきたくてさ」
「へーそうなんだ。オススメは?」
「もつ煮と焼鳥は最高」
「じゃあ、まずそれ頼もう」
運ばれてきたもつ煮は味噌ではなく塩味で、冷えた体に染み渡る優しい味だった。焼鳥は濃い味付けで香ばしく酒が進んだ。
「拓海、お誕生日おめでとう」
そう言ってラッピングされた袋を渡された。
「開けていい?」
努が笑顔で頷いた。
開けると紺色のエプロンが入っていた。
「拓海、料理するからいいかなーと思って」
「エプロン持ってないから嬉しい!」
「それ着て、また卵焼き作ってくれる?」
「うん、いくらでも作ってあげる」
嬉しくて涙が出そうだ。
「卵焼き食べたくなってきたから頼もーっと」
「努」
「ん?」
メニューから顔を上げたところを見計らって努の頬にキスをした。
「プレゼントありがとう」
「う、うん···」
頬が赤いのはお酒のせいだということにした。
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