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年末−1−
忘年会シーズンになり、忙しさがピークに達した。
拓海とはうまくいってる。
「実家どこだっけ?」
そういえば地元を知らないと思って、バイト終わりに聞いてみた。
「静岡の浜松ってとこ」
「あーうなぎパイのとこか」
「そうそう。よく知ってるね」
「俺の食への興味をなめないでほしいな」
「食べる専門だけどね」
そう言うと拓海は腹を小突いた。
「帰省はしないの?」
「あ、うん···」
顔が曇り始める。
「あ、なんかごめん」
「親と仲悪くて」
「そうなんだ···。いつから?」
「僕がゲイだって分かってから」
「親知ってたんだな」
「うん···。お姉ちゃんは味方だけど···結婚して子ども産んだばっかだから帰ってこないんだ」
「お姉ちゃんはどこに住んでるの?」
「札幌」
「じゃあなかなか会えないか···」
「うん。でも努がいるから大丈夫」
そう言って笑った顔は強がっているように見えた。
「年越しは拓海ん家で鍋とかどう?」
空気を変えようと明るい話題に変えた。
「うん、いいね」
大晦日まであと4日、街はクリスマスなんてなかったかのように色を変えていた。
明日は年内最後の営業日ということで、忘年会をすることになっていた。拓海は最初嫌がっていたが、説得して来ることになった。
バイトが終わって拓海と着替えていると、新しく入った大学1年の女の子が入ってきた。
「あ!すみません!」
「すぐ終わるから待ってて」
着替えを済ませて声をかけた。
「終わったから大丈夫。ごめんね驚かせて」
「私の方こそ、ごめんなさい」
裏口から外に出ようとしたとき、腕を掴まれた。
「あの···金子さんにお話が」
「あ、うん。悪いけど、拓海先行ってて」
「了解」
部屋に戻り、向かい合わせに座った。
「話って?」
「わ、私と付き合ってください!」
「へっ?」
変な声が出たのを咳払いで誤魔化した。
「駄目ですか···?」
目が潤んでいる。
「俺、恋人いるんだよね」
「あ···そうだったんですか」
今にも泣きそうだったので、ハンカチを手渡した。
「金子さんって優しいですよね···」
ハンカチを見つめながら女の子が言った。
「そ、そう?俺はこれが普通だから···」
「そうですか···私、勘違いだったんですね」
ハンカチで涙を拭って立ち上がった。
「忘年会行けないって店長に言っといてください」
「え、でも···」
「ハンカチは洗って返しますね」
そう言って駆け足で帰った。
渡したハンカチが拓海のだってことに気付いたのは、忘年会が終わったときだった。
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