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大晦日、拓海の家に向かうとプレゼントしたエプロンを着て鍋の準備をしていた。 ーなんかいいな、こういうの 具沢山のトマト鍋で〆はチーズリゾットにして食べるらしい。 「もうすぐできるから」 「うん、準備してくれてありがとう」 「何飲む?」 「とりあえずビールで」 「そう言うと思って冷やしといた」 こたつに入ってキンキンに冷えたビールとグラスを受け取った。 「さすが、俺の奥さん」 「奥さんじゃないし」 拓海はエプロンを外して向かいに座った。 「乾杯しよっか」 「うん」 冷えたビールと温かい鍋の組み合わせは最高だった。テレビでは毎年恒例の特番がちょうど始まったところだ。 「今年もあっという間だったなぁ」 「ほんと、年々早くなってる気がする」 そう言うと、拓海は空になった缶を新しいのに取り替えてくれた。 「そろそろ〆食べる?」 「うん、お願いします」 野菜や肉から出た出汁をお米がたっぷり吸って、リゾットも絶品だった。 「いやー食った、食った」 「美味しかった?」 「うん、最高だった」 「ならよかった」 鍋の片付けと食器洗いは俺の担当だった。 拓海はこたつでテレビを見ている。 「そーいえばさ」 「ん?」 「忘年会の日、あの子と何話したの?」 「あー···告白された。もちろん断ったけど」 「告白?あの子と接点あったっけ?」 「いや、ないはずなんだけど···」 「まぁモテることは悪いことじゃないから」 「···拓海、怒ってる?」 「怒ってないよ。ちょっとびっくりしたけど」 「そっか」 食器を洗い終えてこたつに戻ると、拓海が抱きついてきた。 「俺が優しくて勘違いしたって言ってた」 「僕もその一人だけどね」 「勘違いじゃなかったじゃん」 「でもさ···その子が僕より前に告白してたら、努は付き合ってたかもね」 「何それ」 信頼されてない気がして口調が少しキツくなった。 「だって努はゲイじゃないし」 「またそうやって壁作る」 「またって何?いくら僕のことが好きだって思ってても、この不安はずっと消えないよ···」 「俺のこと信じてないの?」 「そういう話をしてるんじゃなくて」 「そういうことだろ!」 思わず声を荒らげてしまった。 テレビの中の笑い声が部屋に響き渡る。 「ごめん、大きな声出して」 「僕もごめん···」 カウントダウンが始まった。 拓海の髪を撫でて、ゼロになる瞬間にキスをした。 「今年もよろしく」 「···うん」

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