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家族−1−
目が覚めるとお昼を過ぎていた。
隣では努が爆睡している。スマホを見ると、お姉ちゃんから着信があった。
起こさないように玄関の方に移動して折り返した。
「もしもし、お姉ちゃん?」
「拓海、明けましておめでとう!」
「おめでとう、お姉ちゃん」
「今年も実家帰ってないんでしょ?」
「うん···お母さんから聞いたの?」
「お父さんもお母さんも拓海に会いたがってるよ」
「···僕は会いたくないけど」
「もう一回、話し合ってみれば?」
「その話ならもう電話切るよ」
「ほんと頑固なんだから···」
「お姉ちゃんは元気にしてる?」
「子育ては大変だけど元気でやってる。拓海は?」
「変わらず元気だよ」
「恋人とかいないの?」
一瞬話そうか迷ったが、努の姿が目に入って話すことにした。
「最近できた」
「えー!どんな人、どんな人?」
お姉ちゃんは興奮して声が1トーン高くなっていた。
「同じ学部で同じバイト先の人」
「見た目はどんな感じ?」
「バスケ部で背がめちゃくちゃ高い」
「えーいいなー。青春だなー」
「旦那さんいるでしょ」
「子どもがいると旦那は二の次」
「ははっ、旦那さん可哀想」
「拓海、今度その人連れてきてよ」
「言われると思った」
「約束だからね!楽しみにしてるから」
「はいはい」
「じゃあね」
「うん、またね」
電話を切ると寝癖だらけの努が起きてきた。
「電話誰から?」
「お姉ちゃんから。今度、努を連れてきてだって」
「俺のこと話したの?」
「うん。恋人いるか聞かれたから」
「そうなんだ。嬉しいなー」
そう言って後ろから抱きしめた。
「寒いからベッド戻ろ?」
「うん」
手を繋いだまま暖かいベッドでのんびりした。
三が日があっという間に過ぎ、新年初のバイトに向かった。努は峯岸と遊ぶらしく、バイトは明日からだった。裏口を開けると、努に告白した女の子がいた。
「あ、高橋さん···明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう」
「今日は金子さんと一緒じゃないんですね」
「あ、うん。明日からだって」
「じゃあ、これ金子さんに渡してください」
それは僕が努に貸したハンカチだった。
「なんで僕に頼むの?」
「だって···金子さんの恋人って高橋さんですよね」
そう言うと、スマホを突き出して努が僕をおんぶしてる写真を見せてきた。
「···」
背中に嫌な汗が流れる。
「黙ってるってことは本当なんですね。他の女ならまだしも、男とかありえない···」
「···努はただの友達だから」
思わずそう言ってしまった。
「じゃあ、今度金子さんに聞いてみますね」
そう言ってホールに戻っていった。
努のことを恋人だと言えなかった自分が情けなくて涙が溢れた。
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