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卒業−1−
卒論をなんとか締切当日に提出して、あとは卒業式を待つだけだった。暖かい日差しが降り注ぎ、春の気配が近づいてきていた。
「卒業式終わったら旅行行かない?」
「旅行かー」
拓海を膝枕して聞いてみた。
「どっか行きたいとこある?」
「うーん···ぱっと思い浮かばないけど」
「北海道は?お姉さんもいるし」
「それいいかも」
「お!じゃあ航空券いくらか見てみる」
「春休みだから高いかも」
「確かに」
調べてみると、時間を気にしなければ安い航空券も予約できそうだった。
「お姉ちゃんに会えるかどうか聞いてみるよ」
「うん、頼んだ」
拓海が電話するとスピーカーにしなくても聞こえるくらい喜んでいた。
「決まりだな」
「うん」
体を屈めて拓海のおでこにキスをした。
卒業式当日、拓海と一緒に会場に向かった。
スーツ姿を見るのは入学式以来で、真っ白な肌に
黒いスーツが映えていてドキッとした。
会場に着くと純と堀内先輩が待っていた。
「堀内先輩、なんでいるんですか?」
「奥さんが卒業するんだから当たり前だろ」
そう言って純を抱き寄せた。
「実さんやめてください」
「あ、ごめん」
「尻に敷かれてますね」
「うるさい」
これ以上いじると怒られそうだったのでやめた。
「そろそろ始まるみたい」
「入ろっか」
入学式と同じ並びで席に座った。
まさかたまたま隣に座っていた純が堀内先輩と結婚して、拓海と恋人になるなんて、あの時の自分に言っても信じないだろうなと思った。
卒業式が終わり、入り口前は友達やカップルで写真を撮る人たちで溢れていた。堀内先輩がこっち、こっちと手を振っていた。
2ショット、3ショットと撮って最後は近くにいた人に頼んで全員で撮ってもらった。
「じゃ僕たち行くね」
「うん、また遊びに行くから」
純と堀内先輩は駐車場へと向かった。
「俺たちも行こうか」
「うん」
帰りのバスでさっき撮った写真が純から送られてきた。それを拓海に見せると笑っていた。
「改めて見ると凸凹だね」
確かに俺も純も身長差がまず目につく。
「それだけ?」
「努のスーツ姿に惚れ直した、かも」
「かもってなんだよー」
キスしたい衝動に駆られたが、なんとか抑えた。
窓の外を見ると満開の桜並木が続いていた。
「綺麗だなー」
見とれていると拓海が左頬にキスをした。
「綺麗だね」
シャツの第一ボタンが開いていて鎖骨が見えた。
「うん」
膨らんだ熱を鞄で隠した。
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