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目が覚めると拓海が寝息を立てていた。
昨日のことを思い出して布団が少し膨らんだ。
ベッド脇に置いたスマホを取ろうと腕を伸ばすと
拓海が起きた。
「ごめん、起こしちゃった?」
「んー···今何時?」
スマホを見ると11時だった。
「11時」
「もうそんな時間かぁ」
そう言って大きなあくびをした。
「もうちょっと寝る?」
拓海は首を横に振った。
「朝ごはんっていうか···昼飯作る」
そう言うと、起き上がって下着にエプロンという格好で料理を作り始めた。気づかれないようにそっと近づいて、素肌とエプロンの隙間に手を入れて後ろから抱きしめた。
「何か手伝う?」
肩に頭を乗せて聞いてみた。
「危ないから座ってて」
「はーい」
しばらくして、フレンチトーストとハムエッグが
テーブルの上に並んだ。
「美味そう!いただきます!」
「どうぞ」
美味しすぎて、ものの5分で食べ終わった。
「起きたばっかでよく食べられるね」
「だって美味いんだもん」
「もー口についてる」
そう言ってついてた卵を取って食べた。
「キスしていい?」
「お皿洗ったらね」
空になったお皿を重ねて渡された。
「はーい」
立ち上がろうとしたときに、頬にキスされた。
「早く洗ってきて」
「うん」
今日はバイト最終日ということで、お世話になったお礼にデパ地下でお菓子を買って行った。
「今までお世話になりました!」
バイト終わりに2人で店長にお菓子を渡した。
「今までありがとう。2人とも働き者だったから、抜けた穴を埋めるのは大変だよ」
店長は少し涙ぐんでいた。
「拓海くん」
「はい」
「努のこと頼んだよ」
友達としてなのか、恋人としてなのかは分からないが、拓海は任せてください、と答えた。
他のバイトの子ともお別れの挨拶をして帰ろうとしたとき、あの子が声をかけてきた。
「あの···金子さんと高橋さん」
「どうしたの?」
拓海は少し居心地が悪そうにしている。
「私···ひどいこと言ってごめんなさい」
そう言って深々と頭を下げた。
「もう怒ってないよ。むしろ拓海のことがもっと好きになったし」
拓海の手を握った。
「それならよかったです···。お幸せに」
そう言うと足早に帰っていった。
「帰ろっか」
「うん」
外に出ると桜の花びらが風に吹かれて舞っていた。
手を繋いだまま家に帰った。
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