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翌日、眠気と戦いながら出勤すると、大森さんが書類を持って立っていた。
「おはようございます」
「おはよう。自分の席座って」
何が始まるんだろう、と不安に思いながらデスクに座った。
「この資料作ったの誰かしら?」
持ってた書類を見てみると昨日作ったものだった。
口調からして怒られそうだと思って、黙っていると
先輩が手を挙げた。
「あ、俺です」
「そう。この資料よくできてる」
「ほんとですか!」
自分で作ってないのに、褒められて嬉しそうだ。
「でも、高橋くんが昨日残業してたような気がするけど私の見間違いかしら?」
大森さんが僕の方を見て少し微笑んだ。
「あ、えーと、それは···」
先輩は明らかに動揺していた。
「後輩を育てるのも先輩の役割だって教えてきたつもりだけど」
「そ、その通りです···」
先輩はいたたまれない表情で俯いた。
「高橋くん」
「はい」
「この調子で頑張りなさい」
そう言って大森さんはいなくなった。
お昼休憩で先輩がコーヒーを奢ってくれた。
「高橋、昨日はごめん」
「仕事早く覚えたいので大丈夫です」
「俺、大森さんが誰かを褒めたの初めて見た」
「そうなんですか?」
「だって鉄の女だぞ」
「僕の目には厳しいけど優しい人に見えます」
「俺はできれば関わりたくないね。さっきも死ぬかと思った···」
自業自得だろ、と思いつつも愛想笑いをしてデスクに戻った。
今日は定時で帰ることができた。夜風が涼しくて心地がいい。努に今日いいことがあった、とメッセージで送って家に急いだ。
「ただいま!」
「おかえり。いいことって何があったの?」
大森さんのことを努に話した。
「へーいい人だな」
「うん。認めてもらえた気がして嬉しかった」
「そういう人がいてくれて安心した」
「努は仕事どう?」
「こっちは体力勝負って感じだから」
「そっか。後でマッサージしてあげる」
「お、サンキュ」
夕飯を食べ終えた後、努の足をマッサージした。
確かにふくらはぎが張ってる感じがした。
「あー···気持ちいい」
「お疲れ様です」
「うん。もうちょっとでGWだから頑張る」
「あ、そういえばそうだね」
すっかりGWのことを忘れていた。
「あのさ、俺の実家行かない?」
うつ伏せの努がこっちを向いた。
「え?」
「嫌ならまた今度でもいいんだけど」
「ううん、一緒に行く」
「じゃ決まりだな」
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