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翌朝、恐る恐る1階に下りると父さんはいなかった。
「お父さんなら出かけたわよ」
「あ、そうなんだ」
「拓海くんは?」
「もうすぐ下りてくる」
「朝ごはん食べるでしょ?」
「うん」
「じゃあ準備するから手伝って」
拓海が下りてきたときには朝ごはんが並んでいた。
「昨日は驚かせてごめんなさいね」
「いえ、いいきっかけになりました」
「そう、それならよかった」
母さんはホッとした表情でコーヒーを飲んだ。
「お父さん、夕飯までには帰ってくると思うから」
「···わかった」
話すならその時だよ、と言われてる気がした。
朝食を食べ終えると優が起きてきた。
「おはよ」
「優、今日どっか出かける?」
「いや、出ないけど」
「じゃあ車借りていい?」
「いいけど新車だから気をつけてよ」
「わかってるって」
「じゃあこれ」
そう言って渋々鍵を渡された。
昼前に家を出てアウトレットに向かった。想像はしていたが、かなり渋滞していた。
「みんな考えることは一緒だなー」
「そうだね」
赤信号で、拓海がポッキーを出してくれた。
「食べる?」
「食べさせてくれる?」
「はいはい」
プレッツェルのところは拓海の指と一緒に食べた。
予定より1時間遅れてアウトレットに着いた。先に牛タンで腹ごしらえをしてから店を回った。帰りの車内で努の口数が減ってるのが気になった。
「お父さんのこと?」
「···うん。どう話せば伝わるかなって」
「素直に話せばきっと伝わるよ」
努の左手にそっと手を重ねた。
「拓海、その白い袋開けてみて」
車に乗るときに渡された袋を見ると、中に白い箱が入っていた。
「開けていい?」
努は頷いた。箱の中には指輪が入っていた。
「俺の気持ちを形にしたくて」
右手の薬指にはめるとぴったりだった。
「ありがとう」
嬉しくて、嬉しすぎて涙が出た。
「似合ってるよ、拓海」
夕日に照らされた横顔は何より愛しかった。
家に着くとお父さんが帰ってきていた。
努は鍵を優くんに返して、お父さんの前に座った。
「父さん、話聞いてくれる?」
何も言わずにただ真っ直ぐ努を見ていた。
「俺、拓海とこの先もずっと一緒にいたいと思ってる。たとえ父さんに反対されたとしても、拓海と別れる気はない」
そう言って僕の手を握った。僕も握り返した。
お父さんは無言で立ち上がって、冷蔵庫から人数分のビールを出した。
「努と拓海くんに乾杯しよう」
そう言って笑顔になった。
努と顔を見合わせ、お父さんに頭を下げた。
「それじゃ夕飯にしましょ」
お母さんが涙声で食器を並べ始めた。
「よかったね、努兄」
優くんが努の肩を叩いた。
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