39 / 61

−3−

翌朝、恐る恐る1階に下りると父さんはいなかった。 「お父さんなら出かけたわよ」 「あ、そうなんだ」 「拓海くんは?」 「もうすぐ下りてくる」 「朝ごはん食べるでしょ?」 「うん」 「じゃあ準備するから手伝って」 拓海が下りてきたときには朝ごはんが並んでいた。 「昨日は驚かせてごめんなさいね」 「いえ、いいきっかけになりました」 「そう、それならよかった」 母さんはホッとした表情でコーヒーを飲んだ。 「お父さん、夕飯までには帰ってくると思うから」 「···わかった」 話すならその時だよ、と言われてる気がした。 朝食を食べ終えると優が起きてきた。 「おはよ」 「優、今日どっか出かける?」 「いや、出ないけど」 「じゃあ車借りていい?」 「いいけど新車だから気をつけてよ」 「わかってるって」 「じゃあこれ」 そう言って渋々鍵を渡された。 昼前に家を出てアウトレットに向かった。想像はしていたが、かなり渋滞していた。 「みんな考えることは一緒だなー」 「そうだね」 赤信号で、拓海がポッキーを出してくれた。 「食べる?」 「食べさせてくれる?」 「はいはい」 プレッツェルのところは拓海の指と一緒に食べた。 予定より1時間遅れてアウトレットに着いた。先に牛タンで腹ごしらえをしてから店を回った。帰りの車内で努の口数が減ってるのが気になった。 「お父さんのこと?」 「···うん。どう話せば伝わるかなって」 「素直に話せばきっと伝わるよ」 努の左手にそっと手を重ねた。 「拓海、その白い袋開けてみて」 車に乗るときに渡された袋を見ると、中に白い箱が入っていた。 「開けていい?」 努は頷いた。箱の中には指輪が入っていた。 「俺の気持ちを形にしたくて」 右手の薬指にはめるとぴったりだった。 「ありがとう」 嬉しくて、嬉しすぎて涙が出た。 「似合ってるよ、拓海」 夕日に照らされた横顔は何より愛しかった。 家に着くとお父さんが帰ってきていた。 努は鍵を優くんに返して、お父さんの前に座った。 「父さん、話聞いてくれる?」 何も言わずにただ真っ直ぐ努を見ていた。 「俺、拓海とこの先もずっと一緒にいたいと思ってる。たとえ父さんに反対されたとしても、拓海と別れる気はない」 そう言って僕の手を握った。僕も握り返した。 お父さんは無言で立ち上がって、冷蔵庫から人数分のビールを出した。 「努と拓海くんに乾杯しよう」 そう言って笑顔になった。 努と顔を見合わせ、お父さんに頭を下げた。 「それじゃ夕飯にしましょ」 お母さんが涙声で食器を並べ始めた。 「よかったね、努兄」 優くんが努の肩を叩いた。

ともだちにシェアしよう!