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「それは辛いね···」
橋本のことを拓海に話した。
「うん。何も言えなかった」
橋本の辛そうな顔が頭から消えない。
「自分が橋本くんの立場ならしんどいよ···」
拓海の表情も曇っていた。
「力になりたいのに何もできない」
拳を強く握りしめた。
翌日、出勤すると橋本は休みだった。
「今日も休みか。金子、なんか聞いてる?」
土屋先輩が聞いてきた。
「あ、いや···何も聞いてません」
理由を話しても困るだけだと思い嘘をついた。
「そっか。そろそろ行くか」
「はい」
椅子にかけてたジャケットを着て外回りに出た。
先輩の後ろを歩いていると急に足が止まった。
「どうしたんですか?」
「あれ、橋本じゃない?」
先輩が指差す方向に橋本と見知らぬ男がいた。
「会社休んで何してんだよ」
そう言う先輩と橋本の方に近づいてくと、男が急に橋本の腕を掴んでラブホに入ろうとした。助けなきゃ、と思ったときには先輩が先に動いていた。
「俺の後輩に何してるんですか?」
橋本は土屋先輩が急に現れて動揺していた。
「ちっ、面倒くせぇな。どけよ」
そう言って男が先輩を突き飛ばした。
橋本が先輩に駆け寄る。
「邪魔すんじゃねぇよ」
まだ気が済まないのか、先輩に近づく男の前に立ち塞がった。
「まだ何か?」
身長に驚いたのか、俺の顔を見上げると男はいなくなった。
「先輩すみません···」
橋本が泣いて謝っていた。
「俺は大丈夫。橋本は大丈夫なのか?」
「···僕のことはいいんです」
「よくない。大事な後輩だから」
そう言って先輩は立ち上がった。
「よかったら話聞かせてくれないか?」
橋本は静かに頷いて、カフェに移動した。
「さっきは何してたんだ?」
「···アプリで知り合った人と会ってました」
橋本は俯いたまま話した。
「橋本は···その···ゲイなのか?」
「···はい」
「それが会社を休んでる理由か?」
橋本は首を横に振った。
「じゃあ理由は何だ?」
氷がすっかり溶けきったコーヒーを一口飲んで、
橋本が話し出した。
「先輩のことが···好きなんです」
「え?」
予想外の答えに、ケーキを食べる手が止まった。
「···先輩が結婚してるのは知ってます。でも···顔を見れば見るほど気持ちが大きくなって···」
涙を拭いながら話す橋本の背中に手を置いた。
「俺、結婚してないけど」
「え?」
橋本の声と重なった。
「でも指輪してますよね?」
「あ、これは周りから色々言われるのが嫌だからカモフラージュ。ちなみに俺もゲイだから」
情報量が多すぎて開いた口が塞がらない。
「俺でよければ付き合おっか。俺も橋本のこと可愛いと思ってたんだよね」
そう言って土屋先輩は指輪をしまった。
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