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「拓海だよな?久しぶり」 「···久しぶり」 冷や汗が止まらない。 「お知り合い?」 大森さんが聞いてきた。 「···高校の同級生です」 早くその場を離れたくて時計を見た。 「ごめん、引き止めちゃって。俺も都内で働いてるから近いうち飲みにでも行こう」 そう言うと省吾は名刺を渡していなくなった。 「久しぶりの再会なのに嬉しくなさそうね」 「···」 高校の記憶が蘇り、胸が苦しかった。 「詳しくは聞かないけど、仕事はしっかりね」 そう言って大森さんは自分のデスクに戻った。 省吾のことを忘れようと仕事に集中して、いつの間にか定時になっていた。努に今から帰る、とメッセージを送って会社を出た。 「ただいま」 「おかえりー。なんか疲れてる?」 「ちょっとだけ体ダルくて」 「風邪?」 そう言っておでこを大きな手で包んだ。 「熱はなさそうだな」 「多分天気のせいだと思う」 「そっか。あんま無理するなよ」 「うん、ありがとう」 夕飯を食べ終え、お風呂から出ると努が髪を乾かしてくれた。省吾のことを話すなら今だと思った。 「あのさ」 「ん?」 「今日、高校の同級生に会ったんだ」 「へーすごい偶然じゃん」 「うん···」 「会いたくない人だったの?」 「好きだった人なんだ」 ドライヤーの風が止まった。 「初めて聞く話だよね?」 努の言葉に頷いた。 話し出すと努は黙って聞いていた。 「話してくれてありがとう」 話し終わると努は頭を撫でてくれた。 「聞いてくれてありがとう」 「拓海はどうしたい?」 「···分からない。でも、今なら向き合える気がする」 「そっか」 そう言うと後ろから抱きしめてくれた。 「努がいなかったら、また逃げてたと思う」 「逃げるのも悪いことじゃないよ」 「うん。でも努と出会って、変わったってところを省吾に見せたい」 「よし!じゃあ胸張って行ってこい」 「ありがとう」 振り向いてキスをした。 次の日、お昼休みに省吾に電話した。 「もしもし、拓海だけど」 「こんなに早くかかってくると思わなかった」 「飲みに行く話だけど、いつ空いてるかな?」 「明日の夜とかどう?」 「うん、大丈夫」 「じゃあ店は後で住所送るから、明日仕事終わったらそこ集合でいい?」 「わかった」 「それじゃ明日楽しみにしてる」 電話を切って、朝作ったお弁当の卵焼きを食べた。 相変わらず最高の出来だった。

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