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「拓海、こっちこっち」
仕事終わりにお店に行くと省吾がいた。
「待たせちゃった?」
「ううん、大丈夫。入ろっか」
「うん」
お店はお洒落なスペインバルで、カップルや女性客が多かった。生ハムとアヒージョを頼んで、お酒は白ワインにした。
「まさか拓海と再会するなんてびっくりだよ」
「僕もびっくりした」
「元気そうでよかった」
「うん。省吾もね」
その後は近況報告をして、時間が過ぎていった。
「付き合ってる人いるんだ」
省吾が薬指の指輪を見て言った。
「うん」
「俺は最近振られたばっか」
「そうなんだ」
「優しすぎるのが怖いんだってさ」
そう言って悲しそうに笑った。
「拓海の彼女はどんな人?」
「彼女じゃない」
「彼女じゃないってどういうこと?」
「僕、ゲイなんだ。だから彼女じゃなくて彼氏」
省吾は驚きのあまりむせていた。
「おいおい、冗談だろ···」
「本当だよ」
「まじかよ···」
「驚かせてごめん」
「いや謝ることじゃないけど···」
「高校のとき、屋上でご飯食べたの覚えてる?」
「もちろん、拓海の卵焼きは最高だった」
「省吾に喜んでほしくて作ってたから」
「それって···」
「うん、省吾のことが好きだった」
「···全然知らなかった」
「知ったら一緒にご飯食べてくれなかったでしょ」
省吾はグラスを置いて頭を下げた。
「拓海、ごめん!」
「どうしたの、急に」
「ひどいこと言って拓海の気持ちを傷つけるようなことしてごめん」
こういう真っ直ぐなところが好きだった。
「もう昔のことだから気にしてないよ」
「そっか」
顔を上げた省吾ともう一度乾杯した。
「で、彼氏はどんな人?」
口で説明するより早いと思って写真を見せた。
「へーかっこいいじゃん」
「でしょ」
「俺振られたばっかなんですけどー」
「ごめん、ごめん」
「俺も早くいい人見つけよっと」
「切り替え早すぎ」
「彼女できたら報告するから」
「はいはい」
そう言って2人で笑った。
店を出る前に写真を撮って解散した。
帰り道、空を見上げると星が綺麗に見えた。湿気のない爽やかな夜風を感じながら家に帰った。
「おかえり」
「ただいま」
「ちゃんと話せた?」
「うん。すっきりした」
「それならよかった。おいで」
両手を広げた努の胸に飛び込んだ。
「努、ありがとう」
「どういたしまして」
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