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努が出張に行ってから2週間が経った。努と付き合う前の暮らしに戻っただけなのに、仕事から帰ってくると寂しさで泣きそうになった。
会いたい気持ちが膨らんで、土曜に内緒で努に会いにいくことにした。会えると思うと嬉しすぎて、あまり眠れないまま新幹線に乗り込んだ。
会ったらどんな顔するだろうな、と思っているうちに眠ってしまった。起きたときには名古屋の一つ前の豊橋駅だった。
名古屋駅に着いて努が泊まっているホテルに向かった。以前、橋本くんと土屋先輩と飲んだときに連絡先を交換したので部屋番号は先輩から聞いてある。
扉の前で深呼吸をしてからノックした、が反応がなかった。昨日の夜、電話で話したときには出かけるとは言ってなかったのに、と思いつつ近くのカフェで待つことにした。
アイスコーヒーをお代わりして氷が溶け始めた頃、努の姿が見えた。営業で歩き回ってるからか、かなり日に灼けていた。急いで荷物を持って出ようとしたとき、隣に綺麗な女性がいることに気付いた。
身長がすらっと高くて、傍目から見たらお似合いのカップルだった。努の表情からして親しいことは間違いなさそうだ。
行くかどうか迷ったが、レジに並んでる人の数を見て店を出ることにした。信号待ちしてる2人にゆっくりと近づいて努の肩を叩いた。
「え!?拓海?何してんの?」
努は驚いてスマホを落としそうになった。
「サプライズで会いに来た」
「めっちゃ嬉しい!」
「努くん、紹介してくれる?」
ー今、下の名前で呼んだ?
「俺の恋人の拓海です」
「努くん、恋人いたんだね」
指輪に嫌な視線を感じた。
「初めまして、高橋拓海です」
「佐々木玲奈です。名古屋営業所で働いてます」
「努がお世話になってます」
東京で買ってきた手土産を渡した。
「わざわざありがとうございます。これから2人で飲もうと思ってたんですけど高橋さんも来ますか?」
ー2人で飲もうと思ってた?
「はい、お邪魔じゃなければ」
精一杯の笑顔で返した。
「ここ最初に飲んだときのお店ですよね」
「そうそう!覚えてたんだ」
どうやら出張初日に来た店らしい。
「拓海、ここの手羽先は絶品だぞ」
無邪気に笑う努に無性に腹が立った。
手羽先は確かに美味しかったが、2人の距離感が気になって仕方なかった。努がトイレに行くと気まずい沈黙が流れた。早く帰ってこないかな、と思っていると佐々木さんが口を開いた。
「いつから努くんと付き合ってるの?」
「去年の秋からです」
「まだそんなもんなんだ」
言い方が少し気になった。
「それが何か?」
「いや、努くん可愛いなーと思って」
「は?」
「初日に私が部屋に行ったらおどおどしてたし」
「部屋に行ったって何ですか?」
「あれ?努くんから聞いてないんだ」
そう言うと勝ち誇ったような顔をして笑った。
「ねぇ、努くん私にくれないかな?」
気付いたら飲みかけのビールをぶっかけていた。
「拓海、玲奈さんに何やってんだよ!」
トイレから出てきた努がハンカチを佐々木さんに渡した。
「玲奈さん、大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう」
「拓海、何があったんだよ?」
「それはこっちの台詞」
「は?意味分かんねぇんだけど」
佐々木さんを心配そうに見つめる努に耐えきれず、お金を置いて店を飛び出した。
努は追いかけてこなかった。
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