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来週リベンジするとは言ったものの、何をするかは全く決めていなかった。スマホでイベントを探していると、土曜に花火大会が開催されるようだ。 起きてきた拓海に花火大会のことを話すと、あまり乗り気ではなかった。 「花火、苦手なんだよね」 「なんで?」 「小さいときから何でか分からないけど大きい音がだめで。運動会のピストルとかも1人だけ耳塞いでて、スタート遅れたりしてた」 「そっかぁ。いい考えだと思ったんだけど。拓海の浴衣姿見たいし」 「花火じゃなくてそっちが目的でしょ」 「拓海は俺の浴衣姿見たくないの?」 「それは見たいけど···」 「今日見に行ってみない?」 「うーん···」 「見に行くだけ、ね?」 「うん、わかった」 朝食を食べて、一緒にショッピングモールに歩いて向かった。日曜ということもあり、人通りは多くて 道も混んでいた。 拓海は日焼けしやすいタイプの肌で、真夏でも七分袖の服を着ていた。首に汗が滲んでいて、かなり暑そうだった。 「これ使う?って拓海からもらったやつだけど」 冷感タオルを手渡した。 「あー気持ちいい。自分用にも買わなきゃ」 「まだまだ暑いみたいだからなー」 「着いたらコーヒー飲みたい」 「そうしよっか」 モールの中はクーラーがガンガンに効いていて、外との温度差がすごかった。コーヒーを飲んで涼んでから店を見て回った。 浴衣は思ってるより色んな柄があり、見ていて楽しかった。拓海もだんだん乗り気になってきたのか、鏡で自分に似合うか確認していた。 「いいこと思いついた」 拓海が振り向いて言った。 「お互いに着てほしい浴衣を選ぶのはどう?何を選んだのかは当日わかるようにしてさ」 「もう花火大会に行くのは決まりでいいの?」 「うん。浴衣見てたらその気になってきた」 「じゃあ拓海のアイデア採用で」 それから20分くらいしてお互いに選び終わった。 店員さんは理解のある方で、花火大会楽しんできてくださいと袋を渡すときに言ってくれた。 「拓海はどんなの選んだの?」 「教えなーい」 「えーヒントは?」 「当日まで秘密だってば」 「ケチ」 「今知ったらつまんないでしょ」 そう言って不意打ちで頬にキスをした。 「拓海ってたまに大胆だよな」 「努にしかこんなことしないよ」 「うん、わかってる」 早く花火大会の日が来ないかな、と心から思った。

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