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目が覚めると、努の寝顔が目の前にあった。何度も見てきたはずなのに、堪らなく愛しくて起こさないように優しくキスをした。
そっとベッドから出て、BBQに持っていく料理を作ることにした。窓から見える空は雲一つない青空で、鮮やかな緑色をした葉っぱが風に揺れていた。
エプロンをつけて、キッシュを作り始めた。ちょうど焼き上がるころに努が起きてきた。
「おはよう」
「おはよー。めっちゃいい匂いする」
そう言って後ろから抱きついてきた。
「BBQ用にキッシュ作ったんだ」
「朝ごはんじゃないのかー」
努は少しがっかりしていた。
「そう言うと思って余分に作ったから食べて」
「ほんと?超嬉しい!」
そう言うと左頬にキスをした。
「準備するから顔洗ってきて」
「はーい」
キッシュは気に入ってくれたようで、また作ってほしいと言われた。朝ごはんを食べた後、支度を済ませて峯岸の家に向かった。
堀内先輩の運転で、お台場の潮風公園に移動した。
調理道具やグリルはレンタルできるということで、食材はスーパーに寄って買って行った。
荷物の運搬と火起こしは堀内先輩と努が、料理は僕と純が担当することになった。
「昨日、花火大会行ったんだって?」
野菜を切りながら峯岸が聞いてきた。
「うん。最初は乗り気じゃなかったんだけどね」
「楽しかった?」
「努の浴衣姿も見れたし、行ってよかった」
「プロポーズも上手くいったみたいだし」
「知ってたの?」
「もちろん。花火大会の前日に電話がきてさ」
「そうだったんだ」
「努には言ったこと内緒にしてね」
「うん」
「めちゃくちゃ緊張してたから、僕が拓海くんの役で何回も練習したんだよ」
「なんか想像したら面白いね」
「でしょ」
そう言って2人で笑った。
「努の相手が拓海くんでよかった」
「愚痴とかたまに聞いてね」
「もちろん」
努の友達が峯岸でよかった、と心から思った。
「それじゃ、金子と拓海くんの結婚を祝って乾杯」
「乾杯!」
堀内先輩と峯岸から、結婚祝いとしてコーヒーメイカーをプレゼントされた。いい天気といい景色もあって、あっという間に時間が過ぎていった。
暗くなる前に片付けをして、車に乗り込むと家に帰る前に公園で止まった。
「花火しよう」
そう言うと、堀内先輩は線香花火をくれた。
ライターで火を付けると、パチパチと音を立てて
小さな光が顔を照らした。
落ちるまでほんの数秒なのに、精一杯輝くのを見て
努と過ごす一瞬一瞬を大事にしようと誓った。
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