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NY−1−

それから、お互いの家族に結婚のことを報告して、気付いたら冬の足音が聞こえてきた。 お父さんは順調に回復して、先月退院したとお母さんから連絡があった。お姉ちゃんは2人目を妊娠して 出産予定日は来年の夏らしい。 努と年末年始に海外に新婚旅行に行こうと話をしていたが、2人とも仕事に追われてなかなか相談する時間が取れなかった。 そろそろ決めないとと思って家に帰ると、努がガイドブックを読んでいた。 「ただいま」 「おかえり。拓海、ニューヨークとかどう?」 好きな映画の舞台がニューヨークで、いつか行ってみたいとずっと思っていた。 「いいと思う!」 「じゃあ決まりだな」 夕飯を食べた後、4泊6日のツアーを予約した。 「ずっと行きたかったんだ」 努の肩に頭を預けた。 「拓海の好きな映画から思いついた」 「ありがとう。嬉しい」 「行きたいとこに印つけとこう」 「うん」 寝るまでガイドブックとにらめっこした。 仕事納めの日、旅行の荷造りをしに急いで帰ろうとロビーに下りると大森さんも帰るところだった。 「大森さん、お疲れ様です」 「高橋くん、お疲れ様。年末年始はどうするの?」 「新婚旅行に行きます」 大森さんには努のことを話している。 「そう。楽しんできてね」 「ありがとうございます」 「私も彼女と旅行に行くの。皆には内緒よ」 そう言って大森さんが笑った。 「それじゃ、よいお年を」 「よいお年を」 滅多に見れない大森さんの笑顔は可愛らしかった。 寒空の中、走って家に向かった。 翌日、2人分の荷物を入れたスーツケースを持って、フライトの3時間前に成田空港に着いた。拓海は昨日からテンションが高くソワソワしていた。 ニューヨークの冬はかなり寒いと本に書いてあったので、2人とも厚手の上着を機内に持ち込んだ。飛行機は予定時刻通りに飛び立った。 約14時間のフライトで疲れるかなと思ったが、快適に過ごせた。機内食は2食出て、どちらも美味しかった。座席に付いてるモニターで日本未公開の映画も見ることができた。 空港に着くと、添乗員さんと一緒に車に乗ってホテルに移動した。映画でよく見る街並みが目の前に広がって、思わず目が釘付けになった。 「ほんとに来たんだね」 拓海の手が重なった。 「うん」 2人の指輪に大都会の明かりが映った。

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