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第16話
——クロイゼン様、あの人間が来てから『個室』に籠もりきりだな。
——俺には理解できぬ。確かに王子は変わり者だが、いくらなんでも人間を娶るとおっしゃり、あの『個室』にまで……
——あの人間が妖術でも使ってクロイゼン様をたぶらかしているのでは?
——下世話な話よ、私は人間のために料理してるっていうの?
「料理をするのがおまえの仕事ではないのか」
「シ、シクロフスキ様!」
王宮の隅でお喋りをしていた休憩中の者たちに対し、クロイゼンの側近・シクロフスキは銀色の髪を掻き上げながら言い放った。
「も、申し訳ございません! ちょ、ちょっとした軽口というか——」
「あの人間は個室に入ってから何も食していない。おそらく王子が生体エネルギーを与えているのだろう。だが人間には咀嚼、嚥下、排泄、といった栄養摂取のプロセスがある。じきに王子の魔法では栄養失調を起こすだろう。俺の言っていることが分かるか?」
五名いた王宮仕えのクリーチャーたちは一瞬考え、そして料理長である女性のろくろ首が弾かれたように顔を上げた——失礼、頭をシクロフスキの位置まで下げた。
「人間用の食事に毒を盛れ、ということですね!」
「そんな大声で言う馬鹿がいるか」
シクロフスキは冷笑した。
「だが、馬鹿でも行動できる馬鹿なら需要はある。今夜にでも実行しろ」
「かしこまりました!」
五名のクリーチャーは去って行くシクロフスキの背に礼をした。
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