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第20話

「あっ、あっ、く、くろいぜ、ん……さま」 「様は必要ない」 「すみません——」 「謝る必要もない。今度はこちらか?」 「うわぁ! あ、あ、あ、ダメ、そこダメ、き、来ちゃう、なんか来ちゃう!」 「ここには俺とおまえしかいないし誰も許可なく入ることはできない、何が来るというのだ」 「んんんん、はぁ、き、気持ち、いいのが、来ちゃう……」 「ほぅ、またか。それは大歓迎だ。しかしおまえ、食事をしてから調子がいいな。やはり人間には人間の食事をさせよう。俺も気分が高まる」 「あ! クロイ、ゼンッ! そこは——!」 『個室』からわずかに漏れる嬌声を、聴覚の鋭いクリーチャーが知覚し、シクロフスキと例のろくろ首の女性料理長に伝えていた。 「どういうことだ!」  料理長をシクロフスキが声を抑えて問い詰める。 「わ、私は料理をきちんと運び、確かにクロイゼン王子が安全な方、人間が毒の葉入りのものを手に取ったところまで確認いたしました! そして戻されたのがこれです!」  彼女が両腕で示したのは、見事に完食された空の皿二枚が乗った台だった。  シクロフスキが苛立ちを抑えきれない面持ちで言う。 「毒の葉は、確かに人間を殺せるだけの効果のあるものだったんだろうな?」 「はい、間違いありません。以前王宮に侵入しようとした人間を処理したものです」 「一応確認するが、変に目立ったり、分かり易い毒キノコのような形状や盛り付けでは……」 「まさか! 毒の葉は細かく切り刻み、人間のライスに他の具と共に混ぜ込みました!」   シクロフスキはますます眉間のしわを深くし、ふんと鼻を鳴らして去って行った。 ——なお、この一時間前、『個室』では次のようなやりとりがなされていた。

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