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第35話
その頃、王城の最も高い塔に、黒い翼の大きな鳥が舞い降りた。
足場のほとんどない屋上だが、そこにはひとりの男が立っており、舞い降りた鳥を見るとそちらに歩み寄っていった。
「こんな形で旧友に再会するとはな」
人間の形をした男——長身で長い銀髪が月夜に映える男がそう言った。
すると黒い鳥はふっと宙に浮き、黒い霧に変わったかと思いきや、その霧が変形し、ヒト型となった。
「確かに皮肉なものだ」
鳥だった男はそう返しながら黒髪を掻き上げた。
「村はどうだ」
「順調だ。日時は?」
「満月の夜、時刻はもう少し待ってくれ」
「手薄になる箇所だけ知らせてくれれば充分だ」
「そう急ぐな」
「これ以上待てない。それはおまえも分かっているはずだ」
「ああ、だが俺の立場も考えてくれ。分かるだろう?」
「不在時に部下と主君を皆殺しにされた、それのどこにおまえに非がある」
「簡単に言うな。俺はこれでも近衛兵のトップだ、不在でしたと言っても責任は生じる」
「ではおまえも含めてこの場で殺すか」
黒髪がそう言い放った瞬間、とてつもない威力の突風が塔の下から吹き上げた。
「冗談はその辺にしておけ。たとえ旧友でも、そんなことを許す俺ではないぞ」
「ならば——」
「二日だ。二日後には時刻を知らせる。おまえはそれまでせいぜい村の連中を『固めて』おけ」
黒髪はふんと鼻を鳴らし、黒い翼を広げた。
「相変わらず美しいな」
飛び立とうとする黒髪に、長身の方が声をかけた。
「おまえのその褐色の肌は、ヴィネ」
「おまえの灰色の瞳には負ける、シクロ」
そう言い捨て、褐色の肌に黒髪を垂れていたヴィネは黒い鳥に戻って闇夜に消えた。
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