49 / 66

第49話:escape

 絶句するセイジュの胸に、ヴィネに手が触れる。 「やめて! ヴィネやめて! 大声出すよ!!」 「好きにすればいい。クロイゼンを呼べばいい。そして俺を処刑させてもいい。だがセイジュ、聞いてくれ。おまえを自由の身にするには、方法は本当にこれしかないんだ……」  ヴィネは泣きながらセイジュの腹を撫でる。ぽたぽたと落ちてくる熱い雫は、どうしてかセイジュには不快なものに感じられた。 「何言ってるか全然分かんないよ! 自由になるのになんでこんな、ヴィネが俺を——」  「セイジュ、俺はおまえとクロイゼンがまだ結ばれていないことを知っている」  セイジュが目を見開く。  そう、あの『個室』で『教育』を受けてはいるが、以前クロイゼンが言っていた、『一方が他方の秘部に性器を挿入する』という段階に、セイジュとクロイゼンはまだ到達していない。 「だから、俺がおまえを抱く。そうすればおまえは純潔ではなくなる。いくら悪魔とはいえ、純潔でない者を娶りはしないはずだ。だから俺が処刑されても、おまえは村に戻れる。ほんの少しの間だ、おまえのためなんだ」  背筋に怖気が走った。  ヴィネは泣いていたが、そう説明しながらも、口許には笑みをたたえていたからだ。 ——逃げないと!  ヴィネや他のみんなはどうかしてしまったんだ! 本当に、もし本当にヴィネが俺のことを好きならば、強姦なんてことはしないはずだ!    そう信じながら、セイジュはヴィネを思い切り蹴り上げ、身体を丸めてベッドから脱出した。外には近衛兵の誰かがいるはずだ。  暗闇の中、ドアまで走り開いてみると—— 「……ヴィネ、これ、なに」  セイジュは震える声で、ただそれだけ発した。  足がすくみ、今にも腰から崩れ落ちてしまいそうだった。 「だからおまえのためだって言ったじゃないか、セイジュ」  いつの間にか真後ろに立っていたヴィネが言った。  ドアの前の廊下には、多くの近衛兵が見るも無惨な姿で息絶えていた。

ともだちにシェアしよう!