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第49話:escape
絶句するセイジュの胸に、ヴィネに手が触れる。
「やめて! ヴィネやめて! 大声出すよ!!」
「好きにすればいい。クロイゼンを呼べばいい。そして俺を処刑させてもいい。だがセイジュ、聞いてくれ。おまえを自由の身にするには、方法は本当にこれしかないんだ……」
ヴィネは泣きながらセイジュの腹を撫でる。ぽたぽたと落ちてくる熱い雫は、どうしてかセイジュには不快なものに感じられた。
「何言ってるか全然分かんないよ! 自由になるのになんでこんな、ヴィネが俺を——」
「セイジュ、俺はおまえとクロイゼンがまだ結ばれていないことを知っている」
セイジュが目を見開く。
そう、あの『個室』で『教育』を受けてはいるが、以前クロイゼンが言っていた、『一方が他方の秘部に性器を挿入する』という段階に、セイジュとクロイゼンはまだ到達していない。
「だから、俺がおまえを抱く。そうすればおまえは純潔ではなくなる。いくら悪魔とはいえ、純潔でない者を娶りはしないはずだ。だから俺が処刑されても、おまえは村に戻れる。ほんの少しの間だ、おまえのためなんだ」
背筋に怖気が走った。
ヴィネは泣いていたが、そう説明しながらも、口許には笑みをたたえていたからだ。
——逃げないと!
ヴィネや他のみんなはどうかしてしまったんだ! 本当に、もし本当にヴィネが俺のことを好きならば、強姦なんてことはしないはずだ!
そう信じながら、セイジュはヴィネを思い切り蹴り上げ、身体を丸めてベッドから脱出した。外には近衛兵の誰かがいるはずだ。
暗闇の中、ドアまで走り開いてみると——
「……ヴィネ、これ、なに」
セイジュは震える声で、ただそれだけ発した。
足がすくみ、今にも腰から崩れ落ちてしまいそうだった。
「だからおまえのためだって言ったじゃないか、セイジュ」
いつの間にか真後ろに立っていたヴィネが言った。
ドアの前の廊下には、多くの近衛兵が見るも無惨な姿で息絶えていた。
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