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第56話:献身
「ば、馬鹿な……」
セイジュ自身、自分が何をしたか、完璧には理解していなかった。
同じ部屋にいながらも自分だけが安全地帯におり、愛しい人が窮地に立たされて、その親友が命懸けで彼を守った。そしてそれを行った本人が今度は愛する人を殺すと言いだした。
——クロイゼンを、守らなきゃ
ただその一心だった。
『フラフィの中にクロイゼン様の剣がありますので——』
「セイジュ……!!」
クロイゼンが呆然とした顔でこちらを見遣る。
セイジュはクロイゼンの剣でフラフィを破り脱出し、銃を構えたシクロフスキを後ろから斬りつけたのだった。
「に、人間ごとき、が……」
シクロは鬼のような形相で膝から崩れ落ちたが、それでもセイジュは何の実感も得られなかった。銀髪が一部血液に濡れているのも、何だか芸術作品のようで美しくすら見えた。
「クロイゼン……俺、役立てた……?」
ほんの少し微笑んでセイジュが言うと、次の瞬間セイジュはクロイゼンの膝の上にいた。アヴィリードの亡骸はベッドの脇へと避けてある。
「このバカが! 自分が何をしたか分かっているのか?!」
「……うん、俺、人殺しになっちゃった?」
「いや、まだ息はあると見える。空軍がそこまで来ているし、情報は全て俺のテレパスで軍のみならず政府や父上にも伝わっている。おまえは俺を守ったんだ、お手柄なんてもんじゃないぞ」
「契約が破られた」
凜とした声でそういったのは、銃撃や魔法を部屋の端で避けていたヴィネだった。
クロイゼンが立ち上がる。
「あの村で会って以来だな、堕天使ヴィネ」
「セイジュ、本物の天使を見たことがあるか?」
ヴィネはクロイゼンの言葉を無視して尋ねた。
「あるわけないじゃん! 天使の国って空の上でしょ?! っていうかヴィネ、もう二度と顔を見せないで! 俺は——」
「分かっている」
ヴィネはそれだけ言うと、潔く踵を返し、開いていた窓から飛び立っていった。
「大丈夫だ、セイジュ。あいつは堕天使の協会が拘束する。それより——」
「ん、なに?」
「いつまで死んだふりしてんだ、アヴィ」
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