3 / 110

第3話

「別に先生のこと責めてるわけじゃないけど」 「君のことなんて、見ていない」  俺はいつの間にか先生を追いつめていた。間合いも、精神的にも。 「先生」  俺は先生の上顎を押さえて、キスをした。吸い寄せられるように。そこに理由はなかった。 「藤田……」  先生はびっくりして目を見張る。互いに縛られたように見つめ合い、立ちすくむ。 「先生……。俺と付き合えよ」  すんなりと出てきたその言葉に、俺はこの気持ちの正体を知った。もう一度、キスをする。本棚に両手を付いて、先生を囲ってしまう。先生は腕にぶつかりながら逃げようとしたので、思い切り引き寄せて抱きしめた。 「……やめなさい!」 「先生……。よくわからないけど……。俺、先生のことが好きだと思う」 「生徒となんて付き合えるわけがないだろう!」 「静かにしないと、人が来るかもしれないよ?」  その言葉に、先生は全身の力を抜いた。どうせ暴れても俺には敵わないと思ったのだろう。俺は身長190の引き締まった筋肉質な男だ。 「生徒はダメ? 成人した俺となら付き合えるの?」 「何を言ってる。男もダメに決まってるだろう」  弱々しい声が胸の辺りに響く。人気のない廊下に、珍しく女生徒の声が聞こえる。先生はその声を聞いて緊張した。 「大丈夫。ひどいことはしないよ」 「……何を考えてる」 「俺、先生をどれだけ好きか、もっと確かめたい」 「藤田……」  先生が深いため息をついた。 「君は各教科の成績もいい。もったいない。こういうことは一時の気の迷いに過ぎないよ。今に目が覚めれば、笑い話で終われる」 「俺は今を確かめたい。それだけ。これからの話はこれから」  先生は黙り込んでしまった。意外と押しに弱い人なのかもしれない。もっと毅然とした態度で断られると思ったのに。  それに「各教科の成績がいい」なんて、どこで知ったんだ?俺のいい気に拍車が掛かる。男同士なんてよくわからないけど、好きな気持ちが本当なら、このまま進んでみようと思う。戻ることはできない。けど始めることを躊躇っていたら、何もできない。これこそが若さの特権だから。 「先生。電話番号とメアドを教えて……?」  先生の顔を上げさせ、左目の下の泣きボクロにキスをする。目をきつく閉じて震えている様はかわいそうだと思った。だが逆に俺の征服欲に火をつけたのも確かだ。  シャツの一番上と次のボタンを弾いて、鎖骨に口を付ける。思い切り吸うと、先生はぎゅっと俺にしがみつく。かわいらしいその仕草。俺は何度も優しく髪を梳いた。 「先生。教えてくれるよな……?」  先生は俺の胸に顔を埋めると小さく頷いた。

ともだちにシェアしよう!