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第4話

「野村裕貴、っと」  俺は先生のメモを片手にスマホに番号とアドレスを登録した。先生は「付き合うわけじゃない」と言いつつ、渋々、番号を俺に教えた。この名前を登録できることが今の俺には一番嬉しいことなのだから、やはり先生を好きな気持ちは本当なのだと思う。  スマホを枕元に置き、まだ乾いていない髪をごしごしとタオルで擦る。神経質な姉は「髪が落ちる」とうるさいので部屋で髪は乾かすようにしている。短い髪なので乾くのも早い。ドライヤーはセットの時にしかいらない。  網戸から入る涼やかな秋風を感じながら、俺はベッドに寝転がる。そういえば先生は一年中長袖だ。冷房があるとはいえ、暑くないのだろうか。しかもネクタイをしっかりと締めて。暑い夏の授業中、俺は頬杖を付きながらそんな先生の見えない鎖骨を想像していた。実際に見たそれはしっかり張っていて痩せている印象が強くなった。元々線の細い人だったけど触れると程よくしなって、俺のそんなには無かった筈の情欲を掻き立てた。  先生の声が聞きたい。文字じゃなくて、あの人の掠れたようで綺麗によく通る声が。十時三十分。恋人ならまだしもこの時間にまだよく知りもしない生徒から電話が掛かってくるというのは先生的にどうなんだろう。俺はとりあえず深く考えず電話をすることにした。出たくないなら出ない。あの人はそういう人っぽい。  コール音が響く。先生の電話に繋がっていると思うとなんとなく胸が高鳴る。だがその内留守電に繋がり、俺は仕方なくそのまま電話を切った。  何をしているんだろう。そういえばあの人に俺の番号を教えていない。もしかして知らない番号だったから無視したのかもしれない。明日改めて教えよう。そう思った時だった。野村先生の名前が画面に光った。 「あ、はい。野村先生?」 『……ああ、君か』  声が少しだけ緩んだ気がする。俺は黙っていた。 『今ちょうど風呂から出たところだ』 「知らない番号にでもそうやって簡単に掛けちゃうの?」  しばらくの沈黙。 「詐欺とかだったらどうするの?」  先生の声が小さくなる。 『……なぜかな。君のような気がして』

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