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第5話

 この人は何だってこうやって俺を煽るのが上手なんだろう。俺はごくりと唾を飲み込んだ。これは駆け引きなんだろうか。いや、そもそもこの人は、男はダメだと言っていた。俺の腕力に敵わず従っていたに過ぎない。 「今、どんな格好してるの?」 『…………』 「タオル一枚?」 『…………』 「わかった、全裸だ」  急に咳き込むように先生が笑い出した。 『君は変態か?』  あの先生が声を出して笑っている。あの野村先生が……。いつも唇の端だけ上げて、余裕のある笑みしか浮かべないあの人が。たまらない。顔が見たい。触れたい。熱くて肌が火照る気がした。 「先生の住所教えて」 『藤田。これ以上は無理だ』 「何で」 『こうして二人で話しているだけでも教師として失格だ』 「別にプライベートなんだからいいじゃん。そんなに自分を責めなくっても」 『藤田』 「俺はアンタを絶対諦めない」  先生の小さなため息が聞こえる。耳がくすぐったい。俺は首をすくめた。 「俺と付き合えって」 『ダメに決まってる。生徒となんて。ましてや君は男だぞ?』 「……アンタ、本当に男はダメなの?」 『…………』  そう思えない節があった。これは勘だったが、本当に男がダメならこんなふうに押してくる生徒に番号など教えるだろうか。何とかうまくかわそうとしてもこんなやり方、いい大人が考えることではない。これでは逆効果になることくらい、この先生ならわかるだろうに。 『……切るよ』 「逃げるのかよ」  先生は凛とした声で言った。 『私と君は教師と生徒だ。付き合っているわけではない』 「番号とメアドを教えた時点でアウト。アンタ、俺に気があるんだって」 『君は本当に自信家だね』 それには返事をしない。自信なんてあるわけがない。恋愛に不自由をしたことがない俺だったが、男で、年上のましてや教師なんて初めての経験なのだ。必死になっているだけ。それだけこの人を落としたいだけで。 『私は……君が思っているような人間じゃない』 「先生?」 『もし付き合ったとしても。失望させるだけだと思うよ』 「そんなの始めてみなきゃわかんないだろ。なぁ、裕貴さん、俺と付き合ってください」    名前を呼ぶと先生のため息がまた聞こえた。

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