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第6話

「何で俺のこと知ってたの。アンタ、女子ともそんなに話はしないだろう。なのに何で俺の噂聞く機会あるなんて嘘つくんだよ。数学の成績は知ってても全教科の成績なんて……」 『藤田』  話を途中で切られた。俺は先生が話し出すのを待った。 『気持ちは本当にうれしい。ありがとう。……ではこうしよう。君が今度の数学の試験で満点を取ったら……お付き合いさせてもらうよ』  来た来た。この人の問題で今まで満点を出したヤツがいないのは周知の事実だ。そこを突いてくるなんて。どうせ俺の成績も調査済なんだろう。90点以上は常にキープしているが満点は無理だということも。そこまでして俺を遠ざけたいなら、こっちもこっちだ。受けて立ってやる。 「俺も条件をひとつ」 『付き合うだけじゃダメなのか?』 「アンタ、付き合うつもりないだろ。無理難題を吹っ掛けてきて。だから付き合う、に上乗せ。泊りがけの旅行」  先生は少しだけ考えたが今まで満点を取ったヤツがいないことの自信から来るのだろう。いつものように余裕のある声で答えた。 『いいよ。じゃ、おやすみなさい』  電話が切れた。先生と話せたことは嬉しい。付き合えることになるかもしれないのは嬉しい。だが問題は山積だ。俺は机の上のカレンダーを眺めた。中間まであと二十日。しかも終わった翌週の日曜日、バスケの対外試合が入ってる。インターハイでよく顔を合わせる強豪校で、負けられないってみんなで言ってる最中だ。俺はまたベッドに倒れ込んだ。俺たち二年の担任になって半年。誰も取ったことがない満点を取れっていうのか。随分ハードルが高いな。だが高ければ高いほどやる気になれるのが俺のいいところでもある。絶対に満点を取って晴れて先生と付き合ってみせる。思わぬオプションを付けてしまったけれど、本当にあの人を一人占めにできたらいい。そう思って、俺はふとしたことに気付いた。  あの人を好き、ってことは、男が好きってことになるんだろうか。女に対しての興味はもう無くなり、普通ではなくなってしまったのだろうか、などという単純な問い。

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