7 / 110

第7話

「藤田くんってば! ちゃんと聞いてよ!」  翌日。同じクラスの武藤に声を掛けられた。俺は部活に向かう途中だったが、ふと立ち止まる。 「試合、応援に行くから! 場所教えてくれないと行けないじゃん!」  武藤が俺狙いってことはずっと前から知ってる。でも彼女は直接、何も言ってこないし、そうなれば俺が聞く必要もない。今時の女子高生といった感じでセミロングの髪は綺麗にセットされていて、薄化粧もしている。ぽってりとした唇。はちきれんばかりの胸。スカートから覗く健康的な白い足。そうだ、俺はこういう女子が好きだ。 「ちょっとこっち来て!」 「は?」  いきなり腕を取られて人のいない理科実験室に連れ込まれる。薄暗い中、黒板に押し付けられて、俺は鞄とスポーツバッグを落とした。女の体重はそんなに軽くない。目がきらきらとして、両手が首の後ろに回る。重さで顔を落とした瞬間、背伸びした武藤の唇に触れる。甘い香りがして俺は両手を武藤の腰に回す。押し付けられてきた胸が柔らかく弾む。腰からそっと下に手を伸ばすと武藤が身を捩った。 「しても、いいよ?」  唇を離すと照れたようにそう言う武藤の顔を見て、俺の脳裏に突然、先生の顔が過る。できないわけではない。だが、気持ちが持っていかれている。試してみようなどと思った俺がバカだった。俺は武藤の身体をそっと離した。訝しげな彼女に頭を下げる。 「ごめん」  俺は謝ると足元の鞄とスポーツバッグを持って部屋を出た。 「……藤田くん!」 「試合の日程は明日教えるから」  バカなことをした。彼女にも悪いことをした。先生が好きなのはおかしいことじゃない。試すまでもなくわかっていることだと思ったのに。先生と武藤。二人の感触が指から消えない。全然同じじゃない。どっちにだって欲情する。だけど、今の俺が欲しいのは。  俺は急いで部室へと走った。

ともだちにシェアしよう!