11 / 110

第11話

「え? メシ、家で食うの?」  バスケの練習が終わる八時頃にはもう腹ペコだ。部員のみんなでいつも家でメシを食う前に、帰り道にどこかに寄って軽く食べる。それが俺のいつもの日課だった。だが今回は違う。 「ああ、ごめん。中間、点数アップさせたいんだわ」  先生の賭けにどんなことをしても勝たないと、彼とは付き合えない。そう。これは勝負だ。俺は負けたくない。  巧が俺の耳元でこっそりと呟いた。 「遼一、女、できた?」 「えっ」  ある意味当たっているが……女ではない。俺は手を振った。 「できてない。俺、古文弱いじゃん? 少し勉強しとかないと」  みんなが先に歩いているのを見ながら、巧を手でそちらに行くよう促した。 「おまえ、勉強しなくてもバスケだけで大学行けるじゃん。いくつかもう声掛かってんだし」  それは本当の話だった。俺はバスケを大学でも続けていく気でいる。そうなるとスポーツ特待生として大学に入ることになる。確かに勉強せずにバスケに集中して、いい成績を残す方が最善なのだが。 「いやでもさ、スポーツ特待生って結果出せないとダメじゃん」 「自信ないの?」 「違う。不測の事態ってヤツ。俺のポジション、ケガ多いじゃん」 「ああ、まあね……。おまえセンターもできるからな」  俺のポジションはパワーフォワードだがゴール下とあってリバウンドする相手側の選手に全身で圧し掛かられることもままある。コートの端から端までダイナミックなプレイができるが、逆に故障もしやすい場所だ。  あと先生と出会ったことも大きい。俺はずっと先生と一緒にいたいから迷惑になるようなことをしたくないし、もし先生が俺を好きになってくれればケガとかで心配させたくない。そう考えた時、スポーツ推薦よりも一般の受験を考え始めたのだ。俺も相当な自信家だ。 「確かに。故障したらそこで終わりだしな」  巧の言葉に頷くと俺は急いで帰ることにした。 「だから一応勉強もしとかないと」 「遼一が保険掛けるなんて」  思わず答えに詰まる。そう。俺はそんな生き方を今までしてはこなかったのを、巧はよく知っている。 「わかった。頑張れよ」 「ああ」  巧にはいずれ本当のことを話した方がいいのかな、と思いつつ、これは俺一人だけの問題ではないことを思い出す。先生に迷惑は掛けられない。俺は一人でひとつずつ先生との問題をクリアしていかなければならないのだ。  気持ちは落ち着いている。今はやることをやるだけ。俺はジョギングを兼ねて、家まで走って帰った。

ともだちにシェアしよう!