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第12話

 それから試験の前日まで授業、バスケ、勉強を繰り返す日々が続いた。バスケの後は疲れていて、家では宿題以外あまり勉強をしていなかった俺の変貌ぶりを見て、母も応援してくれていた。夜食を作ってくれたりもした。だが、これが先生を落とすためだとは思ってもいない母の期待の目に、俺は少しの罪悪感を感じていた。翌日に疲れを持ちこさないよう、なるべく零時までには就寝することにした。俺は古文が苦手だが、勉強のほとんどは数学だった。過去の試験の傾向からして先生は「ここが出る」などのサービスは一切しない。とにかく授業をしっかり受けることが先決。そして一番最後にそれらの総まとめに応用問題を出す。ここで引っ掛かるヤツが多い。ちょっと捻った問題が多いのだ。例に漏れず、俺もそのラストで点を落とす一人だ。赤点を出すヤツも多い。その後補習、再テストをして、まぁそこで何とか救われるという仕組みだ。そのアップダウンで、みんなどの教科より数学のテストを恐れていた。  ある日の午後。窓際に座っている俺は秋の温かな日差しにやられて、数学の時間中にうとうとしてしまった。先生とはまったく電話をしていない状態で、授業を受けるとその声が優しくて、つい聞き入ってしまう。先生に「順序を踏め」と言われて、俺はテストが終わって満点だとわかるまで先生との連絡は禁止、と自分に決めていた。しっかり授業を受けようと思って俺が先生を凝視していると、彼は絶対にこちらを見ない。そんな状態だったのでその日俺はつい居眠りをしてしまった。数字や公式とはどうしてこんなにも睡眠効果があるのだろう。俺はシャーペンを落としそうになっては起き、を繰り返していた。少しずつ声が近付いてくる。先生の声はうっとりするくらい優しく、俺は余計眠くなっていった。 「そこでこの公式を使います。それでは、式に数字を当てはめてください」

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