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第14話
「ほら、男でもちょっとドキッとするというか……。何で俺を睨むのさ」
「あ、いや。そんなふうに見えるのかな、あの先生」
「あれはモテますよ。他の先生、あ、女だよ? 狙ってるって噂だし」
「誰が」
「保健医の東田先生とか。いいよなぁ。抱きつきてぇ」
東田か。この学校一の美人と言われるあの女。野村先生狙いだったのか。でも今はとりあえず俺と約束をしている段階だ。落ち着け、俺。しかし本当に先生は静かにしていても目立つし、みんなに好かれる。何だか焦るな。
さっきの指先の熱がまだ離れない。先生がどんな結果を待ち望んでいるかまだよくわからないけど、さっき「起きろ」と言ったってことは脈があると思う。付き合う気がなければ寝せておいて満点を取らせなければいいのだから。それとも闘いはフェアに、ということか。それはそれで何だか手助けされたようで気が引ける。
「俺の知る限りじゃ野村先生を落としたヤツはまだいねえな」
ぎくりとして俺は巧を見た。多分学年一の情報持ち。彼が言うなら本当だろう。
「いや、番号とかメアドゲットしたっていう話聞いたことねぇし」
「……それマジ?」
「うん。何かいろんな女子が告ってるみたいだけど、いっつも数学資料室から出てくる女子はだいたい泣いてるしな」
俺にだけ教えた、番号とメアド。女子はダメだが、俺はいいのか? 先生は俺のことが好きなのか? また勝手に解釈したくなる。
「ねぇねぇ教えろよー。遼一」
「いや、真面目に一般入試で行こうかって。言ったじゃん。この間」
「ほんとにそれで行くつもりなんだ。それでバスケの強豪大学は結構大変だと思うけど」
「まぁ。でもまだ一年あるし。頑張ってみようかな」
「ふーん」
先生の線の細い指。掠れた声。先生の唇の温もり。何だかいろんなことが頭の中でないまぜになり、巧の言葉に集中できなくなる。
生徒とは付き合えない、男はダメだ、と言ったくせに俺にやっていることはなんだ。先生は俺と付き合いたいんだ、と勝手にそう思いたくなる。思わせぶりなことをして、俺を煽って。
絶対にテストで満点を取る。そして堂々と先生に告白して、了承してもらう。これは約束だ。勝負なんだ。負けるわけにはいかないし、正直、今は負ける気がしなかった。向こう側で女子に囲まれている先生を見ながら、俺はやっぱり先生のことが好きなんだ、と再確認していた。
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