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第16話

 何で巧が気付いて俺が気付かないのか。ちょっと自分が情けなく、巧の視野の広さが羨ましくなる。 「何か野村先生はバスケって感じしないけど……」  俺は身体の感触を思い出しながら答える。身長は175、もう少しあるかな、というところだろう。 「俺らはさ、バスケやりたくって、そんでバスケやれる身体だし、そういう環境にいるからいいけど、やりたくてもやれないヤツだっているしさ。何か事情があったんだろ」 「そっか……」 「お、休憩終わりそうだぞ、行くぞ」 「うん」  先生がバスケを。知らなかった。今度聞いてみようか。だが巧の言葉が結構重たく響いて、先生に聞いていいのか思案する。身体がコンプレックスって人もいるだろうし。わからないように覗いているってのは、何かわけがあるのだろうし。俺はコートに戻りながらそんなことを考えていた。試合の後はいよいよテストの結果がわかる。どうか満点を取れていますように。そう祈りながら、俺は練習に没頭することにした。  土曜は午後から部内での練習試合、ミーティングがあった。相手校のプレイはもう何度も観ている。あとは実践あるのみだ。部活が終わるといつものみんなでの食事は無し。そのまま家に帰って明日の準備に入る。俺も食事、風呂、ストレッチ、筋トレを終わらせるともう十時になっていた。試合前の高揚感が心地よい。今日は早めに寝ることにした。ベッドに入り込み、スマホの音を切ろうとするとメールが一件来ていた。  野村先生。俺は慌てて中を見る。 ――電話をしても構わないだろうか。  メールがあったのは九時。気付かなかった。試合前の晩。あまり悪い話でないといいけれど。俺はしばらく迷ったが、結局電話してしまった。コールはすぐに切れた。 『藤田か? 夜分に済まない』 「先生、悪い話なら今夜はパスさせて」  恥ずかしいことだがスポーツはメンタル面も大きく影響するものだ。いつもなら聞きたくてしようがない先生の声だったが、今夜はしょぼくれてしまった。 『いや、ケガでもしないように言っておく。明日、応援に行くから頑張れ』 「えっ! マジで!」  嬉しくて弾んだ俺の声に、先生は少し苦笑したようだった。

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