18 / 110

第18話

 試合は他県の相手校の体育館で行われた。観客席には特に女生徒が多く入り乱れていて、黄色い声援が飛び交う中、試合は後半に入っていた。点差は僅かだがうちが負けてる。さすが強豪校と言われるだけある。うちと同様インターハイ常連校でこうなるのはわかっていた。ワックスの掛け方が微妙に違うのか床が滑るような気がする、と巧が言う。確かにどっちもクロスステップやシールがずれそうになったり、ファウルほどではないのにぶつかりすぎてしまうことがある。試合前に手入れされているのだろうが、自校と違うとこんなこともある。しかも汗が零れて滑りやすい。俺は念入りに滑り止めスプレーを靴の裏に掛けた。 「ゾーンを徹底! スクリーンプレイ、もっと意識して!」  タイムアウト中に監督の声が飛ぶ。俺は汗を拭きながらボトルの水を飲んだ。一人一人の完成度が高い。けれどうちも引けは取らないはず。しっかり味方同士で連携できれば負けることはないと思っていた。歓声が止まない中で、俺は何度も流れを確認する。  先生は来ているんだろうな。どこにいるんだろう。変に意識しないよう、先生とは朝から一度も連絡を取らなかったし、顔も合わせなかった。どこにいるかもわからないけれど、きっと俺のことを見ているはず。絶対に勝ちたい。その想いが強烈にあった。  コートに戻っても、まだ暑い。俺はユニフォームの胸の部分を手繰り上げ、首の汗を拭く。 「遼一、遼一」 「うん?」 「ほら、女子がいっぱい来てますよー。頑張らなくちゃね」  俺は苦笑した。こいつの頭の中はそれか。しかし同時に緊張し過ぎている自分に気付く。息を吸って、吐いて。肩の力を抜け。時間を確認するとあと四分ほどだった。点差は二点。攻撃は向こう側。次を入れた方が勝ちだ。  向こうのスローインから始まった。回して終わらせるには時間が長すぎる。あちらも得点を狙っているはずだ。しかしカットがなかなかできない。俺達の焦りも最高潮に達していた。  その時だった。パスのスピンが微妙にずれたのか、それを巧がうまくカットした。

ともだちにシェアしよう!