19 / 110

第19話

「走れ! 遼一!」  同時に走り出した俺に合わせてロングパスが飛んだ。あいつ。俺が絶対取ると信じて投げたんだ。俺は最後の力を振り絞って走った。向こうの選手と競り合う形でボールを取る。もう時間がない。瞬間的に振り返り、トリプルスレットに入る。トラップに掛かったディフェンスが飛び上がったのとタイミングをずらして俺は飛んだ。その時。瞬間的に先生の姿が目に映る。ゆっくりボールを手から離す。緩やかな弧を描いでボールがリングに落ちた。  ホイッスル。スリーポイントがうまく決まった。俺達は一点差で何とか勝った。抱き合って喜ぶみんなを、先生が嬉しそうに見つめていた。  明日は学校なのでバスを降りた後、俺達はファミレスで軽い打ち上げをし、八時には帰路に着いた。途中で俺は先生の声が聞きたくてどうしようもなくなり、電話をした。 『お帰り、藤田』 「先生、今日は来てくれてありがとう。……嬉しかった」 『電話しようと思ってたんだ。……少し会えるかな』 「……俺は会いたいけど……」  暗くなった公園を横切ろうとすると向こうの方で車のクラクションが控えめに鳴った。 「先生、そこの車の中にいるの?」 『ああ。会いにきてしまったよ』  俺は電話を切ると白い車に向かって走り出した。公園を出てすぐのところに停められていた車の助手席を開けて、中に滑り込んだ。薄暗い車中で俺は先生を思い切り引き寄せて抱き締めた。 「……藤田、痛い……」 「先生……野村先生……」  俺は無我夢中でキスをする。人目なんて気にしない。先生は身を捩って俺から逃げようとしたが、俺のあまりの力に根負けして硬い身体を緩ませた。舌を触れ合わせると温かくて、俺は少し力を込めて噛む。先生の手が上げられるのを握りしめて、その後好きなだけ吸った。 「……あれだけの試合をして……よくこんな力が出るな……」 「あ、ごめん、俺、結構、汗臭いでしょ」 「……気にならないよ。今日は頑張ったね、藤田」  先生の綺麗な笑顔に俺はまたキスしたくなる衝動を堪えた。

ともだちにシェアしよう!