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第20話

「最後に……シュートする時に、先生が見えたんだ」 「……あんな時に?」 「瞬間的なんだけど、ものすごくスローに見える時ってあるんだよ、試合中って。先生が必死に両手を握りしめて、真剣に俺を見つめているのが見えちゃったんだ」  先生は恥ずかしそうに俯いた。きっと頬を赤く染めているんだろうな。 「私は……止めようって言ったんだよ。だけど木場先生がよく見えるところに座ろうって……」 「絶対に決めなくちゃって思って。……バスケで負ける、恰好悪いところなんて絶対に見せたくなかった」  先生はぽつりと呟いた。 「……とても素敵だった。……自分のことのように嬉しかった……」 「先生」  珍しく素直に零れた言葉に、俺はいたく感動した。恰好付けようとバスケをやっている訳ではないが、好きな人から素敵、などと言われるとぐっと来てしまう。試合後の妙な昂りもあり、このまま抱いてしまいたい衝動に駆られる。 「……先生……抱きたい……」  先生の人差し指が唇に触れる。少し冷たい。 「……キスだけ。まだ付き合ってない」 「まるで女だな、いや、ごめん、悪い意味で言ったんじゃなくて! ……そそられるよ」  正直、今まで抱くのにこんなに時間を掛けたのは、先生が初めてだった。押せば意外と簡単に落ちるように見えて、この人は頑固で繊細でかわいらしい。 「キスだって、こんなに許しちゃっていいのかなぁ? 付き合ってもいないヤツに」 「君の力は強すぎる。手加減してくれ」 「……俺、乱暴?」 「そんなことはないけど、……痛い時がある」 視線を逸らしたまま、そんなふうに言われると、本当に手が出てしまいそうだ。明日。試験の結果がわかる。俺は我慢して先生から身体を退けた。不思議そうに先生が俺を見上げる。 「……誘ってるの?」 「……君は不思議だ。……綺麗で、強くて、優しくて、……私にはないものをいっぱい持っている。……羨ましい」 「綺麗? 綺麗なのは先生でしょ?」  顎に手を掛けて顔を上げさせる。泣きボクロにそっとキスする。潤んだ瞳がたまらなく俺を誘う。 「このままここにいたら手を出しちゃいそうなんで……帰るね」 「急に来て済まなかった」

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