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第22話
運命の日がやってきた。俺は朝から気もそぞろで他のテストの結果など覚えていないくらいだった。今の俺は試合よりも胸の鼓動が激しくて止まらない状態だ。
「遼一くーん。なぁ?」
「あー早く先生来ないかな」
「はあ?」
巧は俺の目の前で手を振った。
「どうかした?」
「あ、いや、何でもない」
「何かすげー緊張してるようだけど、大丈夫?」
「うん。まぁ」
心ここにあらず、の俺の言葉に巧は首を捻った。
「数学ならおまえ得意分野じゃん。慌てることないし」
「あ、うん、そうなんだけど」
俺には先生と付き合えるかどうかの勝負が掛かってる。満点でなくてはダメなのだ。
「おまえさ……」
「起立!」
野村先生がドアを開けて入ってきた。いつものクールな表情で、俺には判断できない。巧がいそいそと自分の机に戻っていった。俺は先生から目が離せない。先生は堂々としていて、やっぱりダメだったのか? という思いが頭を過る。どうせなら昨日思い切って抱いてしまえばよかった、などという乱暴な考えが浮かぶ。
「礼!」
ガタガタとみんなが席に座る。手には大量のテスト用紙と教科書。俺は息を飲んだ。
「今日はテストを返します」
みんなの悲惨な声が辺りに響く。先生はふふっと小さく笑ってテスト用紙に触れた。
「はい。メモして。平均点は68点。赤点の生徒は今週の土曜の午後に補習して、その後救済措置を取ります」
みんな大笑いする。救済というか、土曜の午後に補習と再テストってどんな苦行だよ。先生はこっちを見ずにテストを配ろうとした。そして思いついたように付け加えた。
「二年始まって以来、私のテストで満点はありませんでしたが、今回、一人だけいます」
感嘆の声が広がる。それって。それって。
先生が俺の方を真っ直ぐに見た。
「藤田遼一です。本当に頑張りました」
みんなの拍手が一斉に沸き起こった。テストを差し出され、俺は席を立った。やった。勝負に勝った。
「頑張ったね」
先生の微笑みに何と返していいかわからず、ありがとうございます、とだけ言って受け取った。それから先生は一人ずつテストを返し、喜んだり苦しみの絶叫をするヤツがいたりでしばし教室の中は混乱した状態になった。
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