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第23話
俺はテスト用紙のラストの問題の後に先生だけが見られるよう、一言書いたのだ。何と返事があるだろうか。そもそも返事があるだろうか。
――旅行は箱根がいいと思うんだけど。
その下に先生の見慣れた文字が。
――君の好きなところに行こう。
俺は胸がいっぱいになって笑みが止まらなかった。今日は練習の前に数学資料室に突入だ。恋人として、キスももう当たり前のことになる。そんなひとつひとつのことがとても幸せに思えて、みんなにテストを配っている先生の顔を見つめていた。
「おーい、遼一、部活……」
「先行ってて!」
俺は鞄とスポーツバッグを持って数学資料室に走り始めた。近くなったら周りに人がいないか慎重に歩く。ドアに指を掛けて開くと先生が本棚に手を伸ばし、懸命に背伸びしているところだった。
「俺が取るよ。これ?」
「あ、そう……」
本を取って渡し、ドアを締めに行くと先生は少しぎこちなく俺を見上げた。いつもの先生じゃない。それがかわいい。
「野村先生、俺と付き合ってください」
まずキスをしたいところだったがよく先生が「順序を踏め」とか言うから、俺は神妙に告白した。先生は困ったように眉を顰めて、それからふっと息を吐いた。
「君には負けたよ。試合もテストも、本当によくやった」
手が差し出される。意味がわからず、俺は先生を見た。
「これから、どうぞよろしく」
「先生……!」
俺はその手を引き寄せて思い切り抱き締める。俺の中にすっぽりと収まった先生は、どうしていいかわからないようで静かにしていた。
「先生、キスしていい? ……いや、その前に……」
俺は胸に顔を寄せている先生を覗き込んだ。
「今度から裕貴、って呼んでいい?」
「……二人の時は」
「俺のことは遼一で」
「……藤田じゃ、ダメか?」
「……まぁ、どっちでもいいけど」
俺はそのまま腕の中の先生の額や瞼、頬や唇にキスしまくった。先生は真っ赤になって顔を上げている。
「裕貴……裕貴」
「……部活はどうした?」
急に水を差されて俺は先生を軽く睨んだ。先生は照れ隠しに必死だ。
「今から行く。今度旅行のこと、一緒に考えよ? それから……」
俺はぎゅっと先生の腰を抑え付けた。
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