25 / 110
第25話
「裕貴さん? 俺」
『今日も部活、お疲れ様』
「裕貴さんこそ、学校お疲れ様」
二人で何だか気恥ずかしくなって照れ笑いをする。本当に恋人同士になったんだな、と思うと、何だかすべてが変わって見える。
『どうした? 藤田』
「いや……俺たち、マジで恋人同士になったんだって思ったら」
『そうだね。不思議な感じだね』
「裕貴さん、男もイケるんじゃん」
『生徒に男もイケます、なんて告白する教師は聞いたことがない』
「ホントにイケるんだ」
『……たまにね』
大人の付き合いってヤツか。何だかちょっと気にくわない。男の腕に抱かれている先生は容易に想像できて、俺はひどく嫉妬する。だが浮気はしないって約束してくれたし、先生は二股するような人じゃない、と思ってる。こうして先生の素顔がひとつひとつ俺のものになっていく。その優越感は例えようのないくらいの快感だった。
「あのさ、旅行なんだけど」
『気を付けなさい。テスト用紙は誰が見ているかわからない』
「普通テストは先生がしっかり管理してあるものだろ?」
『それはそうだけど……』
「箱根がいいと思うんだけど。近いし」
『私と裸の付き合いがしたいの?』
ほらまた。お預けを食らわせるくせに、よく俺を煽ってくる。冗談のようでそれは冗談になっていない。もちろん一緒に温泉に入りたいし、夜は……したい。先生はよく順序と言うけれど、こういうことは勢いもあると思う。
『君の好きなところならどこでもいいけど……。ご両親は泊まりに対してどう思っていらっしゃるの?』
「何か先生みたいだな」
『担任ではないが、数学を受け持ってる。立派な教師と生徒だ』
「友達んち泊まるって言うけど」
『……嘘をつくのか?』
「じゃ先生と恋人になりました。先生と行きます。これでいいのか?」
先生は黙ってしまった。恋人同士と言っても、俺達には、なかなか超えられないものがある。俺は構わないが、先生はその立場として難しいものがあるだろう。わかってはいるがうまく立ち回らないとやっていけない。
俺は机の上のカレンダーに手をやる。十月もほぼ終わり。連休と言えばすぐにくる文化の日の土曜と日曜の二連休しかない。気分を変えて先生にそれを伝えるとしばらく悩んだ後、いいよ、と言った。
ともだちにシェアしよう!