26 / 110

第26話

「でも秋の箱根って高いんだよね。今の十月から十一月に掛けて。びっくりした」 『金のことはいい。私が出すから』 「そうはいかないよ。その……恋人同士だし」 『気持ちはありがたいけど、生徒の出してくれる金ってのはちょっとな。大人のプライドも汲んで。それに気晴らしがしたかったんだ。宿は私が決めておく』 「じゃさ、お昼くらい出させてよ。ね?」  先生は少し嬉しそうに笑って言った。 『いいから。その代わりどこに行くのか、詳細を決めてくれ。私はそういうことに疎い』 「俺が決めちゃっていいの? デートプラン」 『いいよ。楽しみにしているからね』  電話を切った後、俺は最高潮にいい気分だった。実はもうすでに買ってきてある箱根の本を取り出してベッドへ寝転ぶ。先生とどこへ行こうか。そんなことを考えると楽しくてしようがない。初めての彼女とのデートだってこんなにはしゃいだりしなかった。先生は俺にとって特別な存在だ。先生にとってもそうであってほしい、と思うのは早計だろうか。これから先、長い。ゆっくり、先生と大事な時間を紡いでいければいい。そうして卒業したら一緒に住みたい。そんなことまで考えて、俺は気が早いな、と苦笑する。先生は思ったより俺との付き合いをすんなりと始めてくれたし、そんなに俺のことを悪くは思ってはいないはず。ずっと先生といたい、早くキスしたい。そんなことを考えて、俺は秋の夜長を過ごしていた。

ともだちにシェアしよう!