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第27話

 少しずつ旅行の話をしたりしていたが、先生も俺もそれなりに忙しく、詰めは電車の中でということになった。  秋の空は高く青く、気温もそれなりに温かくいい日になった。俺は先生の言われた時間に指定された車両の番号のところで先生を待っていた。先生は十五分前になると早足で茶のバッグを片手にオフホワイトのトレンチコートで現れた。私服を見られるのも恋人だけの特権だ。俺は大きく手を振った。 「裕貴さん!」 「遅れた。ごめん」 「遅れてないよ。大丈夫?」 「君は一目でわかる。背が高いから。羨ましい」 「先生だってそんなに低い方じゃないと思うよ」  すでに開いている電車の中に乗り込んで、指定の座席に座ろうとした。先生と俺の荷物を上に乗せ、コートと俺のパーカーも上げて、窓際に押すと先生は断った。 「君が座ればいい。景色がいいよ?」 「気晴らしがしたいんでしょ? いいから」  肩を押すと先生はすとんと席に座る。ちょっと拗ねたような表情もかわいらしい。 「君は力が強い。加減をしてくれ」 「……それ、前にも聞いたけど。俺、そんなにひどいことしてる?」 「いつも……力が、強いと思う」  学校にいる時はいつもクールで近寄り難いのに、俺にはこんなに豊かな感情表現をする。それが嬉しくて抱き締めたくなる気持ちを必死に抑えた。 「わかりました。気を付けます」  シンプルな白いセーターにジーンズ。そんな私服姿に見入っていると先生が服を気にして触り出した。 「え? 何? どこか汚れてる?」 「いや、裕貴さんの私服姿ってかわいいと思って」  ちょうど電車が走り出す。連休の初日だから人が多く、早めの電車でも八割くらいの席がすでに埋まっていた。だが横の席が空いていたのをいいことに段々と俺の言動はエスカレートしていった。 「……誰が見てるかわからないから、気を付けなさい」 「そうだね、知り合いに会ったらどうする? 教師と生徒が温泉旅行。ヤバい感じがするね」 「同性だから。いや、やっぱり生徒とはまずいな」 「ねぇ、裕貴さん。……今夜、していい?」

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