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第29話
先生は面白そうに俺を見た。
「いい感性をしていると思う。藤田は本当に頭がいい」
俺は照れて足元を見つめた。先生は学校で見る顔とはまったく違って、ずっと柔らかな笑みを湛えていて、それが俺を元気にさせる。気晴らしになっているならいいし、俺と歩けることを嬉しいと思ってくれたら、もっといい。
「何? あの円柱の塔」
「行ってみる?」
入り口を通ると圧倒的な光に言葉を無くす。上部まで全面のステンドグラスだ。外からはあまりわからなかったが、中は螺旋階段になっている。
「裕貴さん、高所恐怖症とかある?」
「ないよ」
「じゃ、行ってみる?」
「うん」
そんなに幅のない階段を二人でゆっくりと上っていく。先生が足を滑らせても、すぐに支えられるように後ろを歩く。先生は時々、足を止めてはゆっくりと周りを見回している。時々踊り場があって、下りられるようにもなっているから、相当上まであるのだろう。途中で先生はまた止まって、ステンドグラスを眺める。まるで泣き出してしまいそうなその儚い表情を、俺は悪いと思いながらスマホの無音カメラで撮ってしまっていた。様々な光を受けて、静かに目を閉じる先生の顔はまるで天使を思わせた。こんなに美しい人とパートナーになれたのだから、俺はこの人を大事にしよう。大人の事情はなかなかわからないことが多いだろうけれど、なるべく理解するよう努力しよう。先生の自慢になれる恋人になりたい。俺はそんなことを思いながら先生の横顔を見つめていた。
「足湯?」
「一緒に入ろ」
「……少しなら」
先生は場所に行くと俺に背を向けて神経質にジーンズを折っていた。
「それじゃ全部浸からないよ?」
「ちょっとでいいんだ。見るな」
妙な位置でジーンズを止めて、先生は足先だけそっとお湯に入れた。
「あー! 別に裕貴さんの足にすね毛があったからって、俺は驚かないよ」
「そんなんじゃなくて。寒い」
「え? 寒い?」
「……シャツ一枚で寒くないのか」
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