29 / 110

第29話

 先生は面白そうに俺を見た。 「いい感性をしていると思う。藤田は本当に頭がいい」  俺は照れて足元を見つめた。先生は学校で見る顔とはまったく違って、ずっと柔らかな笑みを湛えていて、それが俺を元気にさせる。気晴らしになっているならいいし、俺と歩けることを嬉しいと思ってくれたら、もっといい。 「何? あの円柱の塔」 「行ってみる?」  入り口を通ると圧倒的な光に言葉を無くす。上部まで全面のステンドグラスだ。外からはあまりわからなかったが、中は螺旋階段になっている。 「裕貴さん、高所恐怖症とかある?」 「ないよ」 「じゃ、行ってみる?」 「うん」  そんなに幅のない階段を二人でゆっくりと上っていく。先生が足を滑らせても、すぐに支えられるように後ろを歩く。先生は時々、足を止めてはゆっくりと周りを見回している。時々踊り場があって、下りられるようにもなっているから、相当上まであるのだろう。途中で先生はまた止まって、ステンドグラスを眺める。まるで泣き出してしまいそうなその儚い表情を、俺は悪いと思いながらスマホの無音カメラで撮ってしまっていた。様々な光を受けて、静かに目を閉じる先生の顔はまるで天使を思わせた。こんなに美しい人とパートナーになれたのだから、俺はこの人を大事にしよう。大人の事情はなかなかわからないことが多いだろうけれど、なるべく理解するよう努力しよう。先生の自慢になれる恋人になりたい。俺はそんなことを思いながら先生の横顔を見つめていた。 「足湯?」 「一緒に入ろ」 「……少しなら」  先生は場所に行くと俺に背を向けて神経質にジーンズを折っていた。 「それじゃ全部浸からないよ?」 「ちょっとでいいんだ。見るな」  妙な位置でジーンズを止めて、先生は足先だけそっとお湯に入れた。 「あー! 別に裕貴さんの足にすね毛があったからって、俺は驚かないよ」 「そんなんじゃなくて。寒い」 「え? 寒い?」 「……シャツ一枚で寒くないのか」

ともだちにシェアしよう!