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第36話

「裕貴さん、マジなの?」 「本当に」  先生は一貫して「部屋のシャワーを浴びる」と言い張った。俺はびっくりして先生の顔を見つめる。 「裕貴さん、箱根にきてるんだよ?」 「わかってる」 「箱根と言えば?」 「……温泉饅頭」 「ふざけてないで。俺、何のために勉強頑張ったのさ」 「それとこれとは別。人と風呂に入るのは嫌なんだ」  まったく考えなかった。先生と一緒に風呂に入れるものとばかり。 「わかった。俺が手ぇ出すと思ってんだろ」 「……それもある」 「まさか公共の場でしないって!」 「冗談だ。君がそんなことはしないってわかってる。本当に嫌なだけなんだ。君とだけじゃない。誰とも一緒に風呂に入ったことはないんだ」 「……女とも?」 「男とも」  何だか先生の口から出る「オトコ」という言葉は生々しくて、俺は猛烈な嫉妬に駆られた。先生の「初めて」はみんな奪いたい。そんな想いが表情に出てしまっていたらしい。 「……じゃゆきずりとかあるんだ」 「……そこは大人だから」 「何だよ、もう……」  絶対、俺、からかわれてる。そう思ってしょげていると先生の優しい手が俺の頭をぽんぽんと叩いた。 「私はいいから風呂に入っておいで。きっといいお湯だよ」 「……俺マジで、裕貴さんと入りたかった」 「……ごめんな。その間に私もシャワーを浴びておくから」  ヤバい。それって。俺はずんと重たくなる下半身に歯止めを掛けるように身体を揺すった。 「……それってさ。オッケーってこと?」 「……何が?」 「今夜、……抱いていいってこと?」  先生は困ったように笑う。いいのか悪いのか、まったく判別できない笑みだった。ダメと言われたくなくて、さっさとバスタオルと浴衣を持つ。 「行ってきます!」 「行ってらっしゃい」  急いで部屋の外に出たものの、本当に残念だった。せっかく温泉にきて先生と一緒に入れないなんて。というか、裸が見られないなんて。いや、先生の身体を見て反応してしまったりしたら、それはそれで困るけど。先生の身体は誰にも見せたくない。でも見たいという葛藤で、俺の頭の中はもやもやしていた。

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