39 / 110

第39話

「…………っ!」  俺は先生から身体を上げた。唇を噛まれた。肩を上下させている先生の唇にも血が付いている。俺はしばらく手の甲で唇を抑えた。そんなに強くは噛まれていない。だがここまで拒否されると本当に頭にくる。俺は先生の髪に手を差し入れると顔をもっと上に向かせる。露わになった首筋に舌を這わせる。先生は苦しそうに咳き込んだ。俺の腰の下の足がバタバタと動いていたが、今は力なくもがくだけだ。 「……噛むぞ」 「止めて……」 「教壇に立てなくなるな。どうする?」 「お願い……だから……」  甘過ぎる夜を期待していたわけでもないが、ここまで拒否されるとどうしていいかわからなくなる。身体中に痕を付けて俺のものだと証明したくなる。この人はわかっていない。自分が俺を煽ってばかりいるのを。それともわかってやっているのなら、どうしようもない魔性だ。 「……抵抗するなよ」  両手で顔を覆った先生のスウェットとアンダーウェアを一気に捲り上げる。その時、目に飛び込んできたのは腹の傷だった。昔のもののようで、今は薄赤の引き攣れて盛り上がったものだった。首まで捲り上げるとその痕は上まで続いていて、薄い胸の隆起の間で止まっていた。先生はまったく抵抗しないので、思わず上着を脱がしてしまうと左腕の上部の筋肉、右手の肘の下辺りにも大きな傷がある。下のスウェットと下着も一緒に脱がす。右の腿に、左のふくらはぎに大きな痕が、その他細かな傷があちこちにあった。言葉もなくそれらを眺めていると、先生の状態がおかしくなっていることに気付く。呼吸が不規則で喘ぐように肩を上下させ、布団に必死で爪を立てている。口からは唾液が零れ、目の焦点が合ってない。くるりとうつ伏せになった背の大きな傷も俺の動きを止めていた。 「助けて……助け……て」 「裕貴? 裕貴!」 「痛い……痛いよ……」  最後に二、三度、激しい喘鳴が聞こえた後、ぱたりと何も聞こえなくなる。 「裕貴! 裕貴さん!」  抱き上げた先生は失神していた。  

ともだちにシェアしよう!