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第40話
握っていた手に力が戻る。先生はここがどこだかわからないようであちこち見回している。部屋を暗くして、先生に浴衣を軽く着せて、布団の中に寝せていた。俺は枕元で手を握っているだけ。それだけしかできない。
「……気を失ったのか……」
「……水、飲む?」
「……ああ」
枕元に置いておいたボトルのキャップを外し、先生をゆっくりと抱き起こすとそれを渡す。前髪が乱れて、疲労の色を濃くさせていた。半分くらい水を飲むと俺に渡してくる。受け取ってキャップを締めていると先生はすぐにまた布団の中に潜った。
何と言ったらいいのか、わからない。強引に犯そうとした上、先生を気絶させるなんて。俺はうなだれたまま、手元を見ていると先生の温かな指が触れてきた。
「もう大丈夫……心配しないで」
「裕貴さん、俺……」
「君は言ったね。私のことを、綺麗だと」
先生の瞳がゆらゆらと揺れて、俺の姿も歪んで見える。俺はその手をしっかりと握りしめた。
「この身体を見て……それでも綺麗だと言えるかい?」
綺麗、と言えば嘘になる。俺は返事をしなかった。
「大丈夫。みんなそうだから。この身体を見るとびっくりする。それが当たり前だから」
「何で……笑ってるの?」
「…………?」
「本当は泣きたいんだろ? ……裕貴さんは辛い時、笑うの癖なの?」
先生は自分の口元に手をやり口角が上がっているのを確かめると、苦い表情になった。
「……泣きたい時はあるよ……今もそう。ただ……涙が出てこない。こんな気味の悪い身体を恋人に見せて……本当は泣きたいよ」
先生の口調は柔らかく、どこか諦めに似た響きが感じられた。
「綺麗な身体で君に抱かれたかった……。これは本当」
「裕貴さん……」
「逃げてばかりで、ごめん」
「俺、むりやり……! 本当に、ごめん!」
「唇、大丈夫?」
「え? あ、ああ。大丈夫。それより裕貴さんはもう大丈夫なの?」
「大丈夫。……風呂にでも行こうかな」
「え?」
俺の枕元の腕時計を見る。午前二時だ。先生はゆっくりと起き上がり、俺の肩を叩いた。
「今頃なら人、いないだろう。君もどうだ?」
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