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第44話

 身体を繋げずに清い関係で過ごした翌日の先生は相変わらずの澄ました顔のまま。いや、清いというわけにはいかなかったが、あのまま勢いに任せたら、先生は二度と手に入らないと感じたから何もしなかった。もっとゆっくりと先生を知っていけばいい。抱くことならいつでもできる。だが俺が本当に欲しいのは、先生の心だから。 「……あ、俺、ヤバいかも。大雑把だから」 「……私もこういうことは苦手だと今知った」 「いや、裕貴さんはA型だろ?」 「こういうことに血液型は関係するのか?」 「かも、と思って」 「藤田は……O型かな」 「当たり」  俺達はガラス工房の片隅の大きな机の上で、指導してくれるお姉さんの元でとんぼ玉を使ったアクセサリーを作っていた。先生はネックレス、俺はキーホルダー。別に示し合わせたわけではなかったが、途中からお互いのものを作っていることを知った。俺は嬉しくて時々先生のたどたどしい手元を見ながら口元を緩めていた。先生は真剣そのもので素材を選んだり、俺の首元に当てたりして作っている。俺は毎日手軽に使ってもらえるものを、と考えてキーホルダーにした。これなら部屋や車の鍵を付けてもらえるだろう。  周りには若い女性客達が手作りでとんぼ玉を作ったり、同じようにアクセサリーを作っていたりする。俺達は明らかに異質だが、俺はそういうことはあまり気にならない方だった。それに気分転換をしたかった。先生は最初は気後れしていたけれど、堂々としている俺を見て仕方なく着いてきた。 「仲がいいんですね」  エプロン姿のお姉さんは真ん中に座って、俺達二人の手元を代わる代わる見て、アドバイスをくれた。そうだな、兄弟ってのもおかしいし、教師と生徒じゃ更におかしい。曖昧に二人で笑うとほぼ同時にでき上がった。 「藤田。これ、してみて」  濃い茶の皮のネックレス。中央にブルーのシンプルなとんぼ玉が付いている。その両端にシルバーの飾り。首に掛けて両端を引っ張って前に垂らしてみると先生はにっこりとして、いきなりスマホで俺の写真を撮った。 「嘘! 俺、絶対、今、変な顔してた!」 「してないしてない」

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