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第45話

 スマホを取り上げようとするが先生はさっさと仕舞ってしまった。仕方なく俺も先生にキーホルダーを渡した。丸いキーリングに桜の花が描いてあるピンクのとんぼ玉。隣りに皮で先生の名前の頭文字のYを着けようとしたが、Rにした。先生が大切そうに両手でそれを眺めている間に、お姉さんに「料金は一緒で俺が」と頼んだが、先生が譲らない。 「ダメ。私が出すって言っただろう」 「……じゃ、これの分だけ出して」 「?」  俺は自分の胸元を指差した。先生の作ったネックレス。 「キーホルダーだけは絶対、俺に出させて。お願い」  ああ。お姉さんはもう俺達の関係を薄々気付いていそう。気付かれても全然構わないけれど。この人を俺のものだって世界中に言いたい気分なんだから。 「……それじゃ、お言葉に甘えて。藤田、ありがとう」 「裕貴さんこそ、ありがとう。これ、大切にする」 「私も。毎日使う」  先生はお姉さんにバレていることはもう考えないようにしているようで、気にしているのは帰りの電車のことだった。精算を済ませてお礼を言い、そこを出ると駅に向かいながら先生が振り返った。 「遼一のR?」 「裕貴さんにいつでも思い出してもらえるように」 「……いつでも思ってるよ」 「……そっか」  照れ笑いする俺の腕を軽く叩いて、きゅっとパーカーの端を握られた。 「裕貴さん?」 「大事にするから。ありがとう」 「……俺こそ。ありがとう」  そっと寄り添いながら二人で駅まで向かう。先生の髪に光が当たって、それがとても綺麗で、俺は思わず頭に触れた。小さい。そして細い肩を引き寄せる。俺よりも多くのものを背負っている人。大切に、大切にしよう。その想いが溢れて、俺は彼の細い指にそっと自分の指を絡めた。

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