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第46話

「温泉饅頭、買った?」 「裕貴さんもたまには冗談言うんだね」 「いや、冗談ではなく」  俺は目の前にビニール袋を持ち上げた。先生は何も買う気配がない。 「裕貴さんは何も買わないの?」 「生徒と温泉に泊まりに言ったなんて、誰に言える?」 「真面目だな。言わなきゃいい」  だが、無かったことにされるのは非常に悔しい。そんな顔をしていたのか、先生は嬉しそうに笑った。 「今日、キーホルダー貰ったじゃないか」 「ああ」  先生はコートのポケットからすぐにそれを取り出す。そんなところに入れていてくれたことにかなり感動する。日に透けるガラスはきらきらとして綺麗で先生に残るこの想い出がそんなふうにあってほしいと俺は思った。 「大事にする。ありがとう」 「……うん」  電車に乗り込んですぐに先生は俺の肩にもたれて眠ってしまった。随分と無理をさせてしまったかもしれない。額に落ちる髪を耳に掛けると俺も先生の頭に頬を近付けた。本当は手を握って、何ならキスもしたい。だが先生が近くにいてくれるだけで、今は満足なんだ。先がないわけじゃない。まだこれからがある。先生の傷は思ったよりも深いものなのだとわかったから、急がせたくはない。先生がいつか話してくれるその日まで俺は待つつもりだった。

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