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第49話

 巧にスマホの地図で場所を教えてもらうと部活は出ずに、今日はその店に直行することにした。こんなふうではいけない、と思いながら、結局、俺は数学の時間をサボって保健室で寝せてもらっていた。三方をカーテンで仕切らせてもらい、俺は組んだ手の上に頭を置き、先生のことを考えていた。恋に落ちると、俺はこんなダメな人間になるのか、と思い、落ち込んでいた。先生がわからない。俺の知らないところで、あの人はいったい何をしているのか。巧に先生は「好きな人がいるから」と公言するようになったと聞いたけど、違う男とラブホテル。これはダメージがきつかった。恋人の俺でさえ抱いたことがないのに、その人とは知り合いで多分、とりあえず寝ているんだろう。一緒に風呂に入った時を思い出す。傷があってもなくても俺はあの人が好きで愛していて。その気持ちは変わらず今もここにあるというのに。 「藤田くん、すぐ戻るから、ここ、よろしくね」 「はーい」  いや、よろしくされても困るけど。そういえば東田先生も先生狙いだったな。そんなことを考えていると彼女は意外に早く帰ってきた。 「東田先生? 早いじゃないですか」 「……藤田?」  カーテンを捲ると、野村先生が教科書を持ったまま入り込んできた。俺はびっくりして上半身を起こす。先生は顔色が悪く、俺を心配しているようだった。 「どこが悪いんだ? 今、授業が終わったから、心配で……」 「裕貴」  俺は手をむりやり引いた。教科書がバサバサと落ちて、先生は俺の腕の中に落ちた。 「藤田?」 「裕貴……」  唇を重ねると先生は最初、反射的に俺の腕を叩いたが、唇を舐めるようになってからは必死に俺の首に両手を巻き付けてきた。感じているのか、怖いのか。指が微かに震えている。 「……舌、出して」  素直に舌を出した先生の唇に覆いかぶさり、激しく舌を絡める。先生の鼻を抜ける甘い微かな息が俺を昂らせる。もっともっと貪りたい。唇も、舌も、それから全部を。先生を知り尽くして、それでもまだ足りないほどに。 「藤田くーん、戻ったわよー」  東田先生の呑気な声が部屋に響く。離れようとした先生を俺は離さない。強く舌をなぶり、音がするほど啜った。 「……藤田くん? 開けるよ?」  カーテンが開かれる。先生は蹲って落とした教科書を拾っていた。俺は上半身を起こして上履きを履こうとしていた。 「あら、野村先生? 今、数学の時間だったの?」  東田先生が意識して髪を整えるのが見えた。でも、アンタじゃ、この人を満足はさせられないよ。 「心配して見に来てくれて。でももう大丈夫です。ね? 野村先生」 「……そうだな、よかった」  先生は俯き加減に急いでその場を去る。東田先生が唇を尖らせてその様子を見ていた。 「先生こそ顔色が悪そうだったけど」 「そうですね。東田先生、ありがとうございました」  先生は今頃、数学資料室に向かっているだろう。部屋に入った途端蹲って、今の余韻に浸って、俺のことを考えるだろう。なのに。先生の心はいったいどこにある? 何を考えている? 俺を好きな気持ちに偽りはないと信じているのに、不安になる俺のこの気持ちは何なんだ?

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